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    刑事弁護

    知的財産権法刑事弁護

    最終更新2015-10-30 17:10:17



    著作権法上の刑罰法規の非親告罪化

    日本の著作権法においては、著作権法123条1項により、告訴がなければ、控訴を提起することができないと定められています(親告罪)。

    著作権法第百二十三条  第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。



    2  無名又は変名の著作物の発行者は、その著作物に係る前項の罪について告訴をすることができる。ただし、第百十八条第一項ただし書に規定する場合及び当該告訴が著作者の明示した意思に反する場合は、この限りでない。

    告訴権は刑事訴訟法230条により、犯罪被害者乃至極めて限定された条件で近親の親族に認められています。たとえば、未成年者の著作権が侵害された場合は、親も告訴権者になり得ます。

    刑事訴訟法第二百三十条  犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。



    同第二百三十一条  被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。



     2  被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。



    同第二百三十二条  被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。

    著作権法においては、著作権法123条2項の場合除いては、告訴がない限り公訴を提起できないため、告訴権者(犯罪被害者等)の告訴がないまま公訴を提起しても公訴が棄却されることになります。つまり、起訴状を裁判所に提出して、訴訟を開始しても、告訴がないことが裁判所において判明した時点で、刑事訴訟が形式的に打ち切られることになります。



    また、そもそも著作権法123条1項は、公訴権者たる検察官(刑事訴訟法第二百四十七条「公訴は、検察官がこれを行う。」)に向けられた規定とも解せます。したがって、そもそも法律を順守する意識が高い法曹たる検察官が、著作権法123条1項に従い、告訴がない場合には公訴を提起しないと考えられます。つまり、著作権法違反で検挙され、捜査を受けたとしても、告訴がない限り、検察官が起訴することはほぼほぼあり得ないということになります。



    現在、上記著作権法123条1項を改正して、著作権法違反について、非親告罪にすることが検討されています。そもそも、著作権法が親告罪とされた趣旨や、非親告罪が検討されている背景は、文部科学省のウェブサイトなどで、まとめられていましたので、詳しく知りたい方はリンク先をご参照ください。



    ざっくりいうと著作権は私権なので公訴を提起し、刑事罰を課すか否かは、これまで権利者の判断にゆだねてきていたが、時代が変わりITなどの環境の変化で著作権侵害の在り方も変わってきたので取締強化の一環として非親告罪化するということのようです。



    著作権法の罰則はいくつかありますが、例えば著作権法119条1項は下記のとおり定めています。

    著作権法第百十九条1項  著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

    つまり、もっともオーソドックスな類型としては、「著作権…を侵害した」場合、犯罪を構成するということになります。著作権はいくつかの権利の束なので、具体的には、著作権法第二一条から第二八条に規程されている権利を侵害する行為が、構成要件ということになりそうです。複製権を例にとれば、複製権を侵害する行為が構成要件ということになりそうです。



    もっとも、権利者の同意があれば、著作権の侵害になり得ません。たとえば、著作権者の同意を得て複製を行ったとしても、複製権の侵害とはなりません。そうすると、権利者の同意があれば侵害とならないのだから、結局、非親告罪にしても、親告罪のときと同じように、権利者の明確な訴追意思や刑事訴訟への協力がなければ、刑事訴訟は事実上維持できないのではないか?という疑問もわきます。



    このとき、「著作権…を侵害」するという構成要件において、被害者の同意の位置づけが問題になり得ます。この点は、構成要件要素とする見解や、少数ながら違法性阻却事由とする見解があり、構成要件要素のなかでも、積極的構成要件要素(同意なく著作物に依拠して複製することが侵害)か、消極的構成要件要素(著作物に依拠して複製することが侵害だが、同意があれば侵害ではなくなる)か、明文からも判例からも明らかにされていません。詳しくは、こちらなどを参照してください。



    すなわち、違法性阻却事由や、消極的構成要件要素と考えると刑事訴訟において、最終的にその不存在の立証責任は検察官にあるとしても、第一次的に、被告人や弁護人から権利者の同意の存在が積極的に主張され一定程度の立証がされない限り、有罪とされる可能性があり得ることになります。



    また、積極的構成要件要素と捉えたとしても、例えば複製権の侵害においては、複製の態様から同意がないことが高度に推認される類型というのは、確立されてくる可能性もあると思われます。そうすると、被告人・弁護人から権利者の同意が主張され、推認を覆す程度の立証がされない限り、(明示に同意がないことの証拠まではなくとも他の証拠から)侵害行為の存在を認定できるという論法もとり得そうです。たとえば、覚せい剤などの薬物事犯では、覚せい剤と認識していたこと(故意)が主観的構成要件要素として積極的な構成要件要素に位置づけられると考えられます。しかし、体内から覚せい剤が検出されたことをもって、故意も推認され、例外的に故意がなかった事情を「事実上」、一定程度主張、立証する必要があるのが、現在の刑事訴訟実務です。権利者の同意の存在が同じような位置づけになる(あるいは変化していく)可能性は認められると思われます。



    つまり、同意がないことが構成要件要素等となっているとしても、権利者の確認や協力、刑事訴訟や刑事手続きへのアクセスさえなく刑罰を科されるケースが、一定程度出てくることも十分に予想できそうです。



    そもそもの問題は、白地刑法とさえいわれる著作権法の刑罰法規の構成要件の不明確さと、そうした不明確な著作権法上の刑罰法規を、著作権法を取り巻く環境の変化という大まかな趣旨ですべて非親告罪に転換するという0か100かの議論は、あまりにおおざっぱすぎるという点に集約されそうです。



    近代的な著作物を取り巻く環境の変化に対応して非親告罪に転換する趣旨に適合した犯罪類型のピックアップと、当該構成要件のみの非親告罪化や、そもそもの犯罪類型として処罰する必要性のある行為の絞り込み、著作権法上の犯罪類型のきめ細やかな見直しなど、より丁寧な議論が求められている気がします。






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