刑事弁護
刑事訴訟法論点集
最終更新2016-09-03 17:16:22
刑事訴訟法:論点:裁判:択一的認定
裁判:択一的認定
①概括的認定:裁判所の心証に特定できない部分があれば、「犯罪の証明があつたとき」(333条1項)には当たらず、利益原則から有罪とできないのではないだろうか。この点、同一構成要件内で、概括的な認定となっても、幅のある確証が認められれば、被告人による犯罪事実の存在は確実であり、利益原則に反しない。したがって、同一構成要件内の幅のある認定も、「犯罪の証明があつたとき」に当たる。
注1)また、同一構成要件内の認定であり、新たな構成要件を作出する事にも、ならない。
注2)有罪の言い渡しをするには、「罪となるべき事実」(335条1項)を示さなければならない。一事不再理効(337条1号)の生じる範囲を明確にする必要がある。したがって、事実の明示は、当該犯罪事実が他の犯罪事実から区別できる程度に特定していれば足り、その範囲での概括的記載も許される。もっとも、概括的記載の問題と、概括的認定の問題は一応分けて論じるべき問題と思われる。
②択一的認定:事実認定が、構成要件をまたいで択一的にしか確定しないとき、軽い罪の限度で「犯罪の証明があつた」と言えるだろうか。結局、両事実について確定的な証明がなく、利益原則からは無罪とすべき(335条1項)とも思われる。しかし、重い罪か、軽い罪かどちらかを犯したことが確実であれば、社会通念および法的観点から、軽い罪の限度で「犯罪の証明があつた」というべきである。したがって、軽い罪に該当する事実を認定することも許される(札幌高判昭和61年3月24日)。
注1)新たな構成要件を作出するものであるとして、批判的に解する見解も強い。
注2)記載についても、認定した軽い罪の限度で記載することになる。
③縮小認定:構成要件をまたいで択一的に確定した事実の一方が、他方を包含する場合、軽い罪の限度で「犯罪の証明があつた」(333条1項)といえる。
注1)構成要件をまたがない場合は、単なる概括的認定の問題である。
④単独犯又は共同正犯:単独犯または、共同正犯どちらかである、との事実認定は、構成要件を違えた択一的認定といえるだろうか。修正された構成要件との関係が問題となる。この点、単独犯と共同正犯はともに正犯であり、構成要件を異にしないものと考える。したがって、単独犯または共同正犯いづれか、との事実認定は、概括的認定として許容される。
注1)共同正犯の内部で、実行行為者がX、またはY、ないしはその両名と認定された場合とは、また別の事案である。共同正犯内部での実行行為者に関する幅のある認定の問題であれば、構成要件を異にする疑念はなく、概括的認定であることは自明であり、適法である(最判平成13年4月11日-48事件)。


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