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  1. 交通事故
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人身傷害保険代位控除と過失相殺

不法行為一般において、過失相殺と損益相殺を行う場合、過失相殺処理後に損益相殺処理を行うのが一般的です。

では、交通事故被害の場合、人身傷害保険の支払いについても同様でしょうか。損益相殺(的な調整)を先に行うのか、過失相殺を先に行うのか、すなわち過失相殺後の損害を全損害として、過失相殺後の全損害からさらに損益相殺(的な調整)を行うのか、過失相殺前の損害額を全損害として過失相殺前の損害から損益相殺(的な調整)を行うのか、明確な規定がないため処理方法について疑義がありました。

ここで、火災保険については損益相殺の対象とならないことが判示されていましたが、下記判例では、人身傷害保険についてもこれに倣うとしています。そこで、過失相殺処理後に損益相殺を行うという損害処理が、人身傷害保険金についてはそのまま通用せず、支払われた保険金額について、損害賠償請求権が減額される場合、減額の根拠となる保険会社による代位がどの範囲で生じるかが検討されるべきことになります。この場合、究極的には代位条項の解釈問題となります。

昭和50年1月31日最高裁判所第三小法廷判決(昭和49(オ)531損害賠償、敷金返還請求事件)

家屋焼失による損害につき火災保険契約に基づいて被保険者たる家屋所有者に給付される保険金は、既に払い込んだ保険料の対価たる性質を有し、たまたまその損害について第三者が所有者に対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償義務を負う場合においても、右損害賠償額の算定に際し、いわゆる損益相殺として控除されるべき利益にはあたらないと解するのが、相当である。ただ、保険金を支払つた保険者は、商法六六二条所定の保険者の代位の制度により、その支払つた保険金の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する結果、被保険者たる所有者は保険者から支払を受けた保険金の限度で第三者に対する損害賠償請求権を失い、その第三者に対して請求することのできる賠償額が支払われた保険金の額だけ減少することとなるにすぎない。また、保険金が支払われるまでに所 有者が第三者から損害の賠償を受けた場合に保険者が支払うべき保険金をこれに応じて減額することができるのは、保険者の支払う保険金は被保険者が現実に被つた損害の範囲内に限られるという損害保険特有の原則に基づく結果にほかならない。

この点について、下記「平成24年02月20日最高裁判所第一小法廷判決」は、いわゆる裁判基準差額説を採用することを明らかにしたと評価されています。

すなわち、同事案は、交通事故被害に遭って死亡した子の親である原告が、加害者及び加害車両の運行供用者に対して損害賠償責任を追及したという事案です。原告は人身傷害保険に基づいて保険金を受け取っていました。

そして、人身傷害保険金について、最高裁判所は、「保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと、本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は、保険金請求権者が、被保険者である被害者の過失の有無、割合にかかわらず、上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。そうすると、上記保険金を支払った訴外保険会社は、保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」と判示しました。

このように、交通事故被害者にも過失がある場合、人身傷害保険を先に支払いを受けるか、後から支払いを受けるかで、得るべき金額が変わってくる場合があります。もし、人身傷害保険を受けるべきか判断に迷ったら専門家に相談することもご検討ください。

平成24年02月20日最高裁判所第一小法廷判決(平成21年(受)第1461号/平成21年(受)第1462号)

主文
1 原判決中第1審原告らに関する部分を次のとおり変更する。
第1審判決中第1審原告らに関する部分を次のとおり変更する。
(1) 第1審被告らは、第1審原告X2に対し、連帯して、1227万9743円及びうち813万2560円に対する平成19年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 第1審被告らは、第1審原告X2に対し、連帯して、1104万2921円及びうち703万2560円に対する平成19年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 第1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを5分し、その3を第1審原告らの負担とし、その余を第1審被告らの連帯負担とする。

理由
平成21年(受)第1461号上告代理人…の上告受理申立て理由(第5の4を除く。)及び同第1462号上告代理人…の上告受理申立て理由について
1 本件は、交通事故によって死亡したAの両親である第1審原告らが、加害車両の運転者である第1審被告Y1に対しては民法709条に基づき、加害車両の保有者である第1審被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき、損害賠償を求める事案である。第1審原告らは、第1審原告X1が自動車保険契約を締結していた保険会社から、上記保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項に基づき、保険金の支払を受けたことから、上記保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲等が主たる争点となった。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) Aは、平成17年5月1日午後6時40分頃、横断歩道の設けられていない道路を横断中、前方注視を怠るなどして上記道路を進行してきた第1審被告Y1が運転し、第1審被告Y2が保有する普通乗用自動車に衝突され、脳挫傷、気管挫裂傷等の傷害を負い(以下、この事故を「本件事故」という。)、入院治療を受けたが、同年11月26日、死亡した。
(2) 本件事故によりAが被った損害は合計7828万2219円であるが、本件事故におけるAの過失割合が10%であることから、上記割合により過失相殺をすると、Aが第1審被告らに対して賠償請求をすることができる損害金(以下、単に「Aの損害金」という。)の額は、7045万3997円となる。Aの両親である第1審原告らは、Aの第1審被告らに対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続により取得した。
(3) 第1審原告らは、本件事故によりAが被った損害につき、公立学校共済組合から123万9297円の、第1審被告Y2から793万0904円の各支払を受けた。その結果、第1審原告らが第1審被告らに対して賠償請求をすることができるAの損害金の残元本は、上記(2)の7045万3997円から上記各支払額を控除した6128万3796円となった。
(4) 第1審原告X1固有の損害は、270万円であり、第1審原告X2固有の損害は、160万円である。
(5) 第1審原告X1は、本件事故当時、B(以下「訴外保険会社」という。)との間で、人身傷害条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており、Aは、上記条項に係る被保険者であった。
(6) 本件約款中の人身傷害条項には、要旨、次のような定めがあった。
ア 訴外保険会社は、日本国内において、自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により、被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害に対し、保険金を支払う。
イ 訴外保険会社は、被保険者の故意又は極めて重大な過失(事故の直接の原因となり得る過失であって、通常の不注意等では説明のできない行為(不作為を含む。)を伴うものをいう。)によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない。
ウ 訴外保険会社が保険金を支払うべき損害の額は、本件約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(以下「人傷基準損害額」という。)とする。
エ 訴外保険会社が支払う保険金の額は、人傷基準損害額から〈1〉保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額及び〈2〉上記アの損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。
オ 保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には、訴外保険会社は、その損害に対して支払った保険金の額の限度内で、かつ、保険金請求権者の権利を害さない範囲内で、保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する(以下「本件代位条項」という。)。
(7) 本件約款には、訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。
(8) Aについての人傷基準損害額は、6741万7099円である。第1審原告らは、平成19年10月25日、本件事故によりAが被った損害につき、訴外保険会社から、本件約款中の人身傷害条項に基づき、保険金として、上記の人傷基準損害額から上記(3)の各支払額を差し引いた5824万6898円(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。
(9)ア 第1審原告X1の請求(当審における減縮後のもの)は、以下の金員の支払を求めるものである。
(ア) Aの損害金の残元本の2分の1である924万3908円
(イ) 固有の損害金元本330万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金(民法所定年5分の割合によるもの。以下同じ。)41万0465円
(ウ) 上記(ア)の924万3908円及び上記(イ)の330万円の合計1254万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
イ 第1審原告X2の請求(当審における減縮後のもの)は、以下の金員の支払を求めるものである。
(ア) 上記ア(ア)と同じ
(イ) 固有の損害金元本210万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金26万1205円
(ウ) 上記ア(ア)の924万3908円及び上記(イ)の210万円の合計1134万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
ウ 第1審原告らは、主位的には、本件保険金を支払った訴外保険会社はAの損害金の残元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求権を代位取得すると主張して、上記ア及び上記イの各(ア)のAの損害金の残元本を請求しているが、予備的に、仮に、本件保険金を支払った訴外保険会社が上記遅延損害金の支払請求権を代位取得しないのであれば、第1審原告らは上記遅延損害金の2分の1の支払請求権を有していると主張しており、それぞれ、Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び上記遅延損害金の2分の1である381万1348円を請求しているとみられることは、記録上明らかである。
3 原審は、上記事実関係の下に、以下の(1)及び(2)の理由により、第1審原告らが第1審被告らに対して請求することができるAの損害金の元本を各532万9797円とし、第1審原告らの請求を、上記の532万9797円と第1審原告ら各自の固有の損害金元本(第1審原告X1につき270万円、同X2につき160万円)との合計額及びこれに対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で、これを認容すべきものと判断したが、第1審原告ら各自の固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求については、特段の理由を示すことなくこれを棄却すべきものと判断した。
(1) 本件保険金は、民法491条に準じて、まず、上記2(3)のAの損害金の残元本に対する本件保険金支払日までの遅延損害金762万2696円に充当される。
(2) 本件保険金のうち上記(1)のとおり充当された残額である5062万4202円については、その全額が上記2(3)のAの損害金の残元本に充当され、その結果、Aの損害金の残元本は、1065万9594円となる。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 本件約款中の人身傷害条項に基づき、被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払った訴外保険会社は、上記保険金の額の限度内で、これによって填補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し、その結果、訴外保険会社が代位取得する限度で、保険金請求権者は上記請求権を失い、上記請求権の額が減少することとなるところ(最高裁昭和49年(オ)第531号同50年1月31日第三小法廷判決・民集29巻1号68頁参照)、訴外保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは、本件保険契約に適用される本件約款の定めるところによることとなる。
(2) 本件約款によれば、上記保険金は、被害者が被る損害の元本を填補するものであり、損害の元本に対する遅延損害金を填補するものではないと解される。そうであれば、上記保険金を支払った訴外保険会社は、その支払時に、上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって、損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。
(3) 次に、被保険者である被害者に、交通事故の発生等につき過失がある場合において、訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。
本件約款によれば、訴外保険会社は、交通事故等により被保険者が死傷した場合においては、被保険者に過失があるときでも、その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって、上記保険金は、被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として、被害者が被る実損をその過失の有無、割合にかかわらず填補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと、本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は、保険金請求権者が、被保険者である被害者の過失の有無、割合にかかわらず、上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
そうすると、上記保険金を支払った訴外保険会社は、保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように、上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り、その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。
(4) なお、第1審原告ら固有の損害の賠償債務は、本件事故時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく、遅滞に陥ったものであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)、第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。
5(1) 前記事実関係等及び上記4で説示したところによれば、訴外保険会社は、本件保険金5824万6898円とAの損害金元本7045万3997円との合計額1億2870万0895円が、本件事故によりAが被った損害である前記2(2)の7828万2219円を上回る部分である5041万8676円の範囲で、Aの損害金元本の支払請求権を代位取得し、その限度で第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本の額が減少することとなる。そして、前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円から上記の5041万8676円を控除すると、第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本は、1086万5120円となる。
(2)ア そうすると、第1審原告X1の請求は、以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。
(ア) 上記Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1348円
(イ) 固有の損害金元本270万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金33万5835円
(ウ) 上記(ア)の543万2560円及び上記(イ)の270万円の合計813万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
イ また、第1審原告X2の請求は、以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。
(ア) 上記ア(ア)と同じ
(イ) 固有の損害金元本160万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金19万9013円
(ウ) 上記ア(ア)の543万2560円及び上記(イ)の160万円の合計703万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金
ウ 以上の次第で、原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、第1審原告ら及び第1審被告らの各論旨はいずれも理由がある。そこで、以上に説示したところに従い、原判決中第1審原告らに関する部分を主文第1項のとおり変更することとする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 

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