刑事訴訟法:論点:捜査5.近代的捜査

科学的捜査

①写真撮影:証拠としての写真には、現場写真、再現写真などがある。このうち、犯行ないし、その間近の様子を撮影する行為は、現場写真の撮影行為ということになるが、捜査として許容されるのだろうか。個人の肖像権(憲法13条)侵害を伴うため問題となる。しかし、肖像権も絶対無制約でなく、捜査員が捜査として写真撮影したとき、第三者の容貌が写真に含まれることも、許容される場合がありうる。すなわち、ⅰ.現行犯ないし準現行犯逮捕の要件が満たされる場合に、ⅱ.撮影の必要性、緊急性が認められ、ⅲ.撮影方法が相当な態様で行われた場合には、写真撮影も憲法13条、35条に反しない(最判昭和44年12月24日)。
注1)なお、最高裁判所が写真撮影を強制処分と捉えているのか、任意処分と捉えているかは明らかでない。強制処分と捉えて、許された強制処分として法律の根拠なく行えるというアプローチと、任意処分と捉えて一定の限界を設定するアプローチが可能である。
注2)なお、将来における犯罪捜査の一環として行われたビデオ録画について、ⅰ.将来犯罪が発生する相当高度の蓋然性が認められ、ⅱ.証拠保全をしておく必要性と緊急性が認められ、ⅲ.その撮影が相当な方法で行われた場合、当該ビデオ撮影は合法とした判例(東京高判昭和63年4月1日)がある。
注3)捜索、差押、検証に伴う写真撮影は、令状記載物件に該当すれば、可能である。この場合、写真撮影の性質は検証であって、準抗告は許されない(最決平成2年6月27日)。

②強制採尿:薬物事犯などにおいて、薬剤検査のため、被疑者の尿を強制的に採取する捜査が行われる。
②-①強制採尿の可否:このような強制採尿行為は人格権を蹂躙し、また、身体に対する侵襲を伴うから許されないとの見解もある。しかし、精神的侵害においては検証としての身体検査においても同程度の場合がありえ、医師をして適切な方法で行う場合には、身体に対する危険も回避できる。したがって、Ⅰ.ⅰ.嫌疑の重大性、ⅱ.証拠の重要性、ⅲ.代替手段の有無に照らし、真に止むを得ない場合に、Ⅱ.ⅰ.被疑者の人格権、ⅱ.身体の安全に配慮した、相当な方法により行われる場合は、許容されるものと解する。
②-②手続き:もっとも、強制採尿行為も強制処分であり、法定の手続きに従って行われなければならない。そして、尿は人体においてもはや不要物であり、捜索差押令状によるべきと解される。もっとも、人体に対する侵襲を伴い、身体検査の性質を有するから218条1項ただし書により身体検査令状を付し、218条5項の条件として、医師をして医学上相当な方法により行うことを付しなければならない(最決昭和55年10月23日-31事件)。
②-③強制採尿令状による連行:強制採尿を許可する捜索差押許可上によって、被疑者を最寄の適切な場所に連行できるだろうか。捜索差押令状には被疑者の身柄拘束の許可は含まないため問題となる。しかし、強制採尿にあっては被疑者を最寄の適切な場所に連行しなければ医師をして医学上相当な方法で行えない場合も多く、令状裁判官も連行の可能性を視野にいれて許可しているものと解される。したがって、強制採尿令状による連行は可能であり、その場合必要最小限の有形力行使も認められると解すべきである(最決平成6年9月16日-32事件)。

③強制採血:強制採血も医師をして医学上相当な方法で行う場合は身体への危険もなく、人格権の侵害も通常の身体検査と同程度であるから、許容されるものと解される。その場合、どのような手続きによるべきだろうか。この点、鑑定によるべきとする見解もあるが、直接強制による血液採取を行えないことになってしまう。したがって、鑑定許可状に身体検査令状を併せて発布し、身体検査令状に適当な条件を付す(218条5項)べきである。

④おとり捜査:おとり捜査は、捜査関係者がその身分や意図を隠し、犯罪の実行を働きかけ、相手方が実行に出たところを検挙する捜査手法を言う。このおとり捜査は、①捜査機関が犯罪と誘発する点、②相手方の自由意思を侵害する点で捜査として許されないとも思える。そこで、ⅰ.通常の捜査では摘発が困難な場合に、ⅱ.被害者のいない薬物事犯において(①と対応)、ⅲ.相手方が犯意をすでに有している場合に機会を提供する形で(②)、行う限りであれば任意捜査(197条1項本文)として許容されると解する(最決平成16年7月12日)。

⑤呼気検査:呼気検査について供述を強要するものとして黙秘権を侵害しないかが争われたが、判例は呼気検査は供述を得ようとするものではないから、黙秘権を侵害するものではないとした(最判平成9年1月30日)。

⑥コントロールデリバリー:薬物事犯において、薬物の流通を監視下において黙認し、薬物流通にかかわっている関係者を特定、検挙する捜査手法をいう。この点も、捜査機関が犯罪を黙認する点が問題となるが、被害者のいない薬物事犯において、捜査上やむをえないといえる場合は、任意捜査として許容されよう。