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  1. 刑事弁護
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刑法総論:論点:故意:錯誤

錯誤論

①事実の錯誤:事実の錯誤とは、行為者の認識した犯罪事実と、客観的に存在する犯罪事実が食い違っている場合をいう。この場合、行為者に犯罪事実の表象が欠け、故意が認められないのではないかが問題となる。この点、故意責任の本質は規範の問題に直面する機会を与えられながら、あえて犯罪を実現させた反規範的人格態度に対する重い道義的責任非難にある。したがって、犯罪事実の表象における意味の認識の程度としては、構成要件に抽象化された規範の問題を想起できる程度の認識で足りる。よって、行為者の認識した犯罪事実と、客観的に存在する犯罪事実とが、同一構成要件内で符合する(具体的事実の錯誤)限り、完全な故意責任を問い得る(法定的符号説)。
注1)したがって、因果関係の錯誤においても、行為者の主観において予見された因果関係において、実行行為の危険性が現実化する過程が想起されていた場合は、構成要件レベルの抽象化された規範の問題と直面する機会があったことになり、故意責任を問える。
注2)故意に要求される意味の認識の度合いを構成要件段階まで抽象化する以上、故意に個数は観念できず、客体が複数生じた場合、故意犯も複数成立する。もっとも、観念的競合として、一罪で処断される。

②抽象的事実の錯誤:行為者の認識した犯罪事実と、客観的に生じた犯罪事実が、構成要件をまたいで食い違っている場合を、抽象的事実の錯誤という。この場合、構成要件段階まで抽象化された規範の問題さえ、想起できたといえず、規範の問題に相対する機会が与えられていたといえないから、故意責任は問えないように思われる。しかし、両事実が実質的に重なり合う場合、重なり合う軽い罪の限度で、道義的責任非難をすることが可能である。したがって、その限度で、故意が認められる。
注1)実質的な重なり合いが認められる類型としては、ⅰ.両事実が減刑、加重類型にあるとき、ⅱ.両事実が包含関係にあるとき、ⅲ.客体の類似性、客体以外の構成要件要素の同一性、保護法益の同一性、罪質の同一性などから、両罪が同質と認められるとき、などがある。

③早すぎた構成要件の実現:行為者が第2行為での結果発生を企図し、その前提たる第1行為にでた所、第1行為から結果が発生してしまったような場合である。第1行為時点の実行の着手と、故意の存否が問題となる。実行の着手に関しては、行為において結果発生の現実的危険性が惹起されたかが問題となり、ⅰ.第1行為と第2行為が時間的、場所的に近接し、ⅱ.第2行為に至る特段の外部的障碍がない以上、第1行為時点で第2行為による結果発生の危険性が現実化しているものといえ、実行の着手が認められる。次に、故意に関しては、因果関係の錯誤として、犯罪を企図して犯罪を遂げている以上、故意にかけるところは、ないものと解される。

④ウェーバーの概括的故意:第1行為において結果発生を企図したが、結果発生にいたらず、第2行為で結果が発生してしまった場合である。第1行為における結果発生の危険性が現実化したといえれば、あとは、因果関係の錯誤の問題となる。

⑤法律の錯誤と事実の錯誤:法律の錯誤とは、現実には法律上禁止された行為を、行為者が、法律上禁止されていないと考えて、行ったしまったような場合をいう。法律の錯誤は、行為者が規範の問題に直面しうる機会を得ていた場合であり、事実の錯誤は、規範の問題に直面しうる事実の認識を欠く場合である。たとえば、ムササビを捕獲してはならない、という禁止規範がある場合に、自己が知覚した動物に、モマという意味を与えることは、事実の錯誤にも思える。しかし、‘モマであればムササビではない”と言う通念が一般的でない場合には、規範の問題に直面する機会を付与されていないといえず、意味の認識に欠けるところがなく、法律の錯誤に過ぎない。これに対して、狸を捕獲してはならないという禁止規範があるときに、自己が知覚した動物にムジナとの意味を与えた場合、‘ムジナであれば狸ではない”という社会一般の共通認識があるときは、狸を捕獲してはならないという規範の問題に直面しえず、ムジナと意味づけたことが、事実の錯誤を構成する。
注1)狸とムジナの事案に関しては、違法性の意識の可能性の問題とも言い得るように思われる。

⑥法律的意味の認識:意味の認識には、法律上の意味の認識が含まれる場合がある。たとえば、他人の所有物か、否か、である。たとえば、他人の所有物を、自己の所有物であると法的に誤った意味づけを与えて、不法領得の意思を発現する行為を行ったとしても、横領罪は成立しない。事実の錯誤として、故意を欠く。これに対して、他人の所有物を他人の所有物と認識して、不法領得の意思の発現行為をした場合でも、当該行為が法的に禁止されていないと考えていたときは、法律の錯誤の問題として、故意を阻却されない。

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