違法収集証拠排除法則

①違法収集証拠排除法則

違法な捜査によって入手された証拠でも、その証拠能力を否定する規定は無く、訴訟上有効な証拠足りうる。しかし、裁判所が違法な証拠によっても有罪判決をするのであれば、違法捜査を助長することになりかねない。したがって、先行する捜査に令状趣旨の精神を没却するような重大な違法があり、証拠とすることが将来の違法捜査抑止の観点から相当でない証拠については、証拠能力が否定されると考える。

注1)重大な違法に限るのは、違法収集証拠といえ証明力になんら遜色は無く、真実発見の要請に配慮する必要があるからである。

②毒樹の果実

違法な捜査により収集された証拠によって得られた証拠の証拠能力を否定すべきとする見解がある(毒樹の果実の法理)。派生証拠により有罪判決がされるのであれば、結局、捜査機関の違法捜査を助長してしまうからである。派生証拠として証拠能力を否定すべきか否かは、ⅰ.違法捜査の違法性の強度、ⅱ.原証拠と派生証拠との関連性、を併せて判断すべきである。

注1)ⅱ-1、原証拠と同内容の適法な証拠がある場合、または、原証拠と派生証拠の間に適法な証拠が介在する場合、ⅱ-2、被疑者の同意を経て派生証拠を収集した場合、ⅱ-3派生証拠が独立した別捜査から得られた場合、には、ⅱ.関連性が否定され、証拠能力が認められる。

③善意の例外

捜査機関が悪意なく違法捜査を行ってしまった場合、証拠能力を否定しても、捜査機関に対する違法捜査への牽制とはならない。したがって、証拠能力を否定する理由が無い。

注1)しかし、(重大な)過失に基づく違法捜査については、証拠能力を否定し、捜査機関の注意を喚起することも、意味があるようにも思われる。

④同意

326条は、伝聞証拠に対する同意権を認める。この趣旨は、当事者に証拠に対する処分権を認め、証拠能力を付与する権能を認めた点にある。したがって、違法収集証拠についても、当事者が処分可能な権利を侵害して収集された証拠については、同意によって証拠能力を付与しうるものと解する。

注1)反面、他人の利益を侵害して違法に得られた証拠については、処分権を認めえず、証拠能力付与を認めることはできない。
注2)反対に、他人の利益を侵害して違法に得られた証拠についても、違法収集証拠として訴訟から排除することを請求する適格(スタンディング)は、肯定される。将来の違法捜査抑止効のため、被侵害者に代わって、申し立て権が認められる。
注3)以上をまとめると、被告人には、第三者にたいする違法捜査により得られた証拠の証拠能力を肯定する権能はないが、否定する権能は、認められる。

⑤私人による違法収集証拠

私人が違法に収集した証拠の証拠能力を否定しても、将来の捜査機関の違法捜査を抑止する効力は認められない。したがって、排除法則の適用根拠を欠く。しかし、捜査機関が違法捜査を行ったと同視できる場合には、そのような捜査を今後抑止する観点から、証拠能力を否定することに意義を見出しうる。