時機に後れた攻撃防御方法の却下

民事訴訟法は、時機に後れた攻撃方法或いは防御方法の提出を禁じています。

時機に後れた攻撃防御方法の却下(民事訴訟法157条)は審理が漂流するなど不健全な長期化を招く恐れがある場合に,適時提出主義(法156条)実効化のため制裁的に発動される規定です。

適時提出主義は民事訴訟法上の信義則(法2条)の具体化であって,攻撃防御方法が却下されるのは,信義則に反して訴訟を遅延させようとした等の場合に限られます。

1 訴訟の完結を遅延させること

時機に後れた攻撃防御方法の提出に関する「遅延」要件は,単に期日が伸びることではなく,不当に無益な期日が重ねられるような場合を指すものと解されます。

攻撃防御方法の提出によって,あえて新たな証拠が大量に必要になるようなケースではなく,むしろ,客観的には既に提出済の証拠を活用して審理を充実化させることになるといえるような場合、新たな主張は,訴訟の完結を遅延させるとは評価できない場合もあります。

2 客観的に時期に後れていること

時機に後れた攻撃防御方法にあたるかは第一審以来の訴訟手続経過を通じて判断されます。争点整理手続後の新たな攻撃防御方法の提出は,一般的に時機に後れたと判断される可能性が高いとされます。

しかし、あくまで,争点整理手続後に提出された攻撃防御方法が全て客観的に時機に後れたと評価されるわけではありません。争点整理の性質や,争点整理が行われた時期などを勘案すれば,新たな主張を客観的に時機に後れた攻撃防御方法の提出と評価するのは行き過ぎと言える場合もあります。

3 故意重過失

仮に客観的に時期に後れていたとしても攻撃防御方法の提出に故意も重過失もない場合は、時期に後れた攻撃防御方法として却下できないことになります。

例えば、控訴審において一審判断を受けて訴訟をさらに充実した審理の場として,裁判を受ける権利の保障をより十全化する意図で,殊更に訴訟を遅延させてやろうとか,審理を混乱させてやろうという意図はまったくなく,むしろ審理が無益化することを避けるために追加した攻撃防御方法の提出など,故意も重過失もないと評価でき、この場合、信義則の具体化という趣旨からも却下を認めないことが適切と言えます。

実際の却下裁判例

実際に時機に後れた攻撃防御方法として主張が却下された例を紹介するよ!

「被控訴人は当審において成長発達権の侵害による不法行為の成立を主張する」

「しかしながら、本件は、平成9年12月27日に訴え提起され、3回の口頭弁論期日を経て、平成11年6月30日に第1審判決が言い渡され、平成11年7月13日、控訴人が控訴し、平成12年1月11日、被控訴人が附帯控訴して、3回の口頭弁論期日を経た後、同年6月29日に差戻し前第2審判決が言い渡され、同年7月11日、控訴人が上告を提起し、同月13日、上告受理申立をし、平成14年12月20日、上告事件については棄却決定がされたものの、平成15年3月14日、上告受理事件については差し戻し前第2審判決中控訴人の敗訴部分が破棄され、同項の部分につき名古屋高等裁判所に差し戻す旨の判決がなされ、当審に係属したものであるところ、以上の審理経過において、被控訴人は、差し戻し前第2審の口頭弁論終結時までは、成長発達権の侵害そのものを理由とする不法行為の成立に関する主張をしていなかったことが記録上明らかであり、同主張をしなかったことにつき、民事訴訟法157条1項所定の事由があるものというべきであるので、これを時機に後れた攻撃防御方法としてこれを却下することとする。」

平成16年 5月12日名古屋高裁判決 判時1870号29頁