同一部位の再度の神経症状後遺症

同一部位に交通事故受傷した場合でも、後遺障害が加重されない限り、新たな後遺障害認定はされないことになります。

しかし、神経症状については、14級に該当する神経症状ついては最長5年程度、12級に該当する神経症状ついては最長10年程度で疼痛などの元になっている神経が死滅し、疼痛などの症状が後遺症と言えない程度まで軽快するか消失するとされています。

すると、症状軽快後の同一部位に対する事故受傷による、同一の神経症状残存については、新たな後遺症と評価する余地があることになります。

例えば、平成26年 8月28日横浜地方裁判所判決(平26(ワ)516号損害賠償請求事件(交通事故))は、別事故による神経症状の消失を認めたうえで、同一部位の同一症状について、新たな後遺症と評価しました。

同判決はまず、「原告は,別件事故1によって腰痛等の後遺障害が,別件事故2によって頸椎捻挫後の右上肢しびれの後遺障害が残存したことが認められるものの,いずれの後遺障害も「局部に神経症状を残すもの」として,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する程度にとどまること,本件事故は,別件事故1による後遺障害の症状固定日から約7年,別件事故2による後遺障害の症状固定日から約2年10か月経過した後に発生したものであることを認めることができる。このような別件事故1ないし別件事故2による後遺障害の程度や本件事故までの間に相当期間が経過していることに加えて,原告は,平成24年7月に富士山に登頂した他,同年11月に野球の試合に4番1塁手として出場するなどしており,本件事故当時,積極的にスポーツをしていたこと(甲14ないし16),原告は,本件事故当時,腰痛や右上肢しびれの症状等のための通院等しておらず,別件事故1ないし別件事故2による後遺障害が残存していたことをうかがわせる証拠も見当たらないこと(甲14,弁論の全趣旨)を併せて考えれば,原告の別件事故1ないし別件事故2による後遺障害は,本件事故当時,残存していたと認めることはできない(なお,このように解することは,一般に,後遺障害等級表の第14級第9号の神経症状についての後遺障害に係る労働能力喪失期間が3から5年程度に制限されていることとも整合的である。)。」と述べて、原告の別事故によって発生した後遺症の消失を認定しました。

そのうえで、「①本件事故は,被告車の原告車への衝突によって,原告車が横転し,一回転し大破,全損となった態様であること(前記前提事実(1)オ),②原告は,本件事故によって,頸椎捻挫,頸部神経根症,腰椎捻挫,右坐骨神経痛及び右第8,9肋骨骨折の傷害を負ったと診断され(同(3)ア),右上肢痛・しびれ及び腰部痛等の後遺障害が残存した(症状固定日平成25年7月23日)と診断されていること(甲2),③自賠責保険の後遺障害等級認定手続において,本件事故による頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存していることは否定されていないこと(前記前提事実(5))を認めることができる。これらの事実に加えて,原告の治療状況や症状の経過(甲2ないし5)を併せて考えれば,原告には,頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状について後遺障害が残存しており(症状固定日平成25年7月23日),これは「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に相当するというべきである。」と述べて。「したがって,原告は,本件事故によって,後遺障害等級表の第14級第9号に相当する後遺障害を負ったと認めることができる。」と結論づけました。

実際には、別事故による影響が潜在的には残存しており、賠償額の減額主張などより争点が複雑化するケースも想定されます。

弊所では事案の概要をお伺いして、依頼者のリスクが低い場合や、十分な勝訴見込みがある場合など、受任が適正と判断した場合は、訴訟を代理して引き受けることができます。

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平成26年 8月28日横浜地方裁判所判決(平26(ワ)516号損害賠償請求事件(交通事故))

主文

 1 被告は,原告に対し,329万8240円及びこれに対する平成24年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求を棄却する。
 3 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
 
 

事実及び理由

第1 請求
 被告は,原告に対し,482万7240円及びこれに対する平成24年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は,原告が運転する普通乗用自動車(以下「原告車」という。)と被告が運転する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)との間の交通事故(以下「本件事故」という。)に関し,原告が本件事故によって損害を被ったと主張して,被告に対し,民法709条に基づき,損害賠償金482万7240円及びこれに対する本件事故日である平成24年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 1 前提事実(争いのない事実,証拠(甲6,8ないし11)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
  (1) 本件事故について
   ア 日時 省略
   イ 場所 省略
   ウ 加害車両 被告が運転する普通乗用自動車(被告車)
   エ 被害車両 原告が運転する普通乗用自動車(原告車)
   オ 事故態様 原告車が青色信号に従って交差点に進入したところ,左側から赤色信号を無視した被告車が当該交差点に進入し,原告車側面に衝突したことによって,原告車が横転し,一回転し大破,全損となった。
 (以上(1)について,争いのない事実)
  (2) 責任原因
 被告は,交差点に進入するに当たり,信号を確認し,赤色信号に応じて停止する義務があるにもかかわらずこれを怠り,赤色信号を無視して交差点に進入し,本件事故を惹起させたものであり,民法709条に基づき,原告が被った損害について賠償責任がある。
 (以上(2)について,争いのない事実)
  (3) 原告が負った傷害
   ア 傷病名
 頸椎捻挫,頸部神経根症,腰椎捻挫,右坐骨神経痛,右第8,9肋骨骨折
   イ 原告の通院状況
 (ア) 原告は,平成24年11月25日から平成25年2月6日まで,横浜市立みなと赤十字病院に通院した(通院実日数6日)。
 (イ) 原告は,平成24年11月28日,社会保険蒲田総合病院に通院した。
 (ウ) 原告は,同月26日から平成25年2月12日まで,上田整形外科に通院した(通院実日数24日)。
 (エ) 原告は,同月16日から同年7月23日まで,みたに整形外科クリニックに通院した(通院実日数63日)。
 (以上(3)について,争いのない事実)
  (4) 別件事故について
   ア 原告は,平成16年9月12日に発生した交通事故(以下「別件事故1」という。)によって,腰椎捻挫及び頸椎捻挫の傷害を負い,平成17年7月26日に症状固定となり,腰痛及び長時間座位困難の神経症状について,損害保険料率算出機構によって,「局部に神経症状を残すもの」として自動車損害賠償保障法施行令(以下「自賠法施行令」という。)別表第2(以下「後遺障害等級表」という。)の第14級第9号に該当すると認定された(甲8,9)。
   イ 原告は,平成20年11月11日に発生した交通事故(以下「別件事故2」という。)によって,頸椎捻挫の傷害を負い,平成22年1月18日に症状固定となり,頸椎捻挫後の右上肢しびれの症状について,損害保険料率算出機構によって,「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に該当すると認定された(甲10,11)。
  (5) 本件事故における原告の後遺障害等級認定手続
 原告は,平成25年11月1日,自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の後遺障害等級認定手続において,以下のとおり,自賠責保険における後遺障害には該当しないと判断された。
   ア 頸部受傷後の頸部痛,右上肢痛・しびれ等の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号を超える等級には該当しないと判断されるが,①右上肢しびれについては,別件事故2の受傷に伴う右上肢しびれが後遺障害等級表第14級第9号に該当すると認定されており,これを加重したものとはいえず,後遺障害には該当しない,②頸部痛の症状については,将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえず,後遺障害には該当しないと判断された。
   イ 腰部受傷後の腰部痛,右下肢痛等の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号を超える等級には該当しないと判断されるが,③腰部痛については,別件事故1の受傷に伴う腰痛,長時間座位困難との症状が後遺障害等級表の第14級第9号に該当すると認定されており,これを加重したものとはいえず,後遺障害には該当しない,④右下肢及びしびれの症状については,将来においても回復が困難と見込まれる障害とはいえず,後遺障害には該当しないと判断された。
 (以上アイについて,甲6)
  (6) 損害のてん補
 原告は,本件事故に関し,被告の保険会社から治療費等370万3594円の支払を受けた(争いのない事実)。
 2 争点
 本件の争点は,①本件事故による原告の後遺障害の有無及び程度,②原告の損害額である。
 3 争点に関する当事者の主張
  (1) 争点①(原告の後遺障害の有無及び程度)について
 [原告の主張]
 原告は,別件事故1及び別件事故2において,腰痛や右上肢のしびれの症状について,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存したものの,本件事故当時(平成24年11月25日)において,腰痛の症状は消失しており,右上肢のしびれの症状も改善していたこと,本件事故は原告車両が1回転するほどの衝撃が生じていることからすれば,原告は,本件事故によって,右上肢,腰部痛及び右下肢に後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害を負ったというべきである。
 [被告の主張]
 同一部位の後遺障害については,後の事故による後遺障害の内容と程度が,以前の事故における後遺障害とその内容及び程度を異にしない場合には,後の事故によって後遺障害が残存したものとは認められないところ,本件事故は,別件事故1から8年,別件事故2から4年しか経過していない上,別件事故1及び別件事故2による症状が加重された事実は認められず,当該症状が寛解後,本件事故により悪化したことを裏付ける他覚的所見もないことからすれば,原告の神経症状は,後遺障害等級表の第14級第9号には該当しない。
  (2) 争点②(原告の損害額)について
 [原告の主張]
   ア 治療費 205万4649円
   イ 通院交通費 8万6970円
   ウ 休業損害 156万1975円
   エ 後遺障害逸失利益 86万8240円
 原告は,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存しており,少なくとも5%の労働能力の喪失が認められるところ,原告の本件事故前年の所得は401万0813円であり,労働能力喪失期間は5年といえることから,次の計算式のとおり,原告の逸失利益は,86万8240円となる。
 (計算式)401万0813円×5%×4.3295(5年に対応するライプニッツ係数)=86万8240円
   オ 通院慰謝料 132万円
   カ 後遺障害慰謝料 220万円
 原告は,本件事故により,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害を負っており,全身の広範囲に神経症状が残存しており,慰謝料としては,220万円が相当である。
   キ 弁護士費用 43万9000円
   ク 合計 482万7240円
 原告の損害は,上記アないしキの合計から前記前提事実(6)の既払金を控除した後の残額である482万7240円となる。
 [被告の主張]
   ア 治療費 認める
   イ 通院交通費 認める
   ウ 休業損害 認める
   エ 後遺障害逸失利益 争う
   オ 通院慰謝料 争う
   カ 後遺障害慰謝料 争う
   キ 弁護士費用 争う
第3 当裁判所の判断
 1 争点①(原告の後遺障害の有無及び程度)について
  (1) 別件事故1ないし別件事故2による後遺障害の残存の有無について
 前記前提事実(1)(4)によれば,原告は,別件事故1によって腰痛等の後遺障害が,別件事故2によって頸椎捻挫後の右上肢しびれの後遺障害が残存したことが認められるものの,いずれの後遺障害も「局部に神経症状を残すもの」として,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する程度にとどまること,本件事故は,別件事故1による後遺障害の症状固定日から約7年,別件事故2による後遺障害の症状固定日から約2年10か月経過した後に発生したものであることを認めることができる。このような別件事故1ないし別件事故2による後遺障害の程度や本件事故までの間に相当期間が経過していることに加えて,原告は,平成24年7月に富士山に登頂した他,同年11月に野球の試合に4番1塁手として出場するなどしており,本件事故当時,積極的にスポーツをしていたこと(甲14ないし16),原告は,本件事故当時,腰痛や右上肢しびれの症状等のための通院等しておらず,別件事故1ないし別件事故2による後遺障害が残存していたことをうかがわせる証拠も見当たらないこと(甲14,弁論の全趣旨)を併せて考えれば,原告の別件事故1ないし別件事故2による後遺障害は,本件事故当時,残存していたと認めることはできない(なお,このように解することは,一般に,後遺障害等級表の第14級第9号の神経症状についての後遺障害に係る労働能力喪失期間が3から5年程度に制限されていることとも整合的である。)。
  (2) 本件事故による原告の後遺障害の有無と程度について
 前記前提事実及び証拠(後掲)によれば,①本件事故は,被告車の原告車への衝突によって,原告車が横転し,一回転し大破,全損となった態様であること(前記前提事実(1)オ),②原告は,本件事故によって,頸椎捻挫,頸部神経根症,腰椎捻挫,右坐骨神経痛及び右第8,9肋骨骨折の傷害を負ったと診断され(同(3)ア),右上肢痛・しびれ及び腰部痛等の後遺障害が残存した(症状固定日平成25年7月23日)と診断されていること(甲2),③自賠責保険の後遺障害等級認定手続において,本件事故による頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状については,後遺障害等級表の第14級第9号に該当する後遺障害が残存していることは否定されていないこと(前記前提事実(5))を認めることができる。これらの事実に加えて,原告の治療状況や症状の経過(甲2ないし5)を併せて考えれば,原告には,頸部受傷後の右上肢痛・しびれ及び腰部痛の症状について後遺障害が残存しており(症状固定日平成25年7月23日),これは「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級表の第14級第9号に相当するというべきである。
 したがって,原告は,本件事故によって,後遺障害等級表の第14級第9号に相当する後遺障害を負ったと認めることができる。
 2 争点②(原告の損害額)
  (1) 治療費 205万4649円(争いのない事実)
  (2) 通院交通費 8万6970円(争いのない事実)
  (3) 休業損害 156万1975円(争いのない事実)
  (4) 後遺障害逸失利益 86万8240円
 原告は,前記1(2)のとおり,本件事故によって,後遺障害等級表の第14級第9号に相当する後遺障害を負ったところ,原告の後遺障害の内容及び程度等に照らせば,原告は,5年間にわたり労働能力を5パーセント喪失したと認めることが相当である。そして,証拠(甲7)によれば,原告の本件事故前年の所得が401万円0813円と認めることができるから,原告の後遺障害逸失利益は,次の計算式のとおり,86万8240円となる。
 (計算式)
 401万0813円×労働能力喪失率5%×4.3295(5年に対応するライプニッツ係数)=86万8240円(小数点以下切捨て)
  (5) 通院慰謝料 103万円
 原告の傷害の内容,程度,治療経過等に照らせば,原告の通院慰謝料は,103万円と認めることが相当である。
  (6) 後遺障害慰謝料 110万円
 前記1(2)で認定した原告の後遺障害の内容及び程度等を考慮すれば,原告の後遺障害慰謝料として110万円を認めることが相当である。
  (7) 弁護士費用 30万円
 本件事案の性質,審理の経過,認容額及びその他諸般の事情を考慮すると,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用としては,30万円と認めることが相当である。
  (8) まとめ
 以上のとおり,原告の損害額は,上記(1)ないし(7)の合計額から前記前提事実(6)の既払金を控除した後の残額である329万8240円となる。
 3 結論
 よって,原告の請求は,被告に対し,損害賠償金329万8240円及びこれに対する本件事故日である平成24年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,被告の仮執行免脱宣言の申立てについては,その必要が認められないから,これを却下する。
 (裁判官 棚井啓)