コインハイブ事件最高裁判決、雑感

先日、コインハイブ事件の最高裁判決が言い渡されました。

コインハイブ事件に関する記事

コインハイブ事件は、控訴審以降、2件ほど記事を書いていました。個人的に関心が強い事件でした。

コンピュータウィルス該当性

下記リンク先は、本件で問題となったコインハイブのコンピューターウィルス該当性に関する考察記事です。

保管行為該当性

下記リンク先は、仮にコインハイブがコンピューターウィルスだというなら問題となったかもしれないリンク相当の情報をコインハイブ本体と同一視する点に疑問を呈した記事です。

コンテンツのマネタイズを軽々に犯罪としなかった点

言い渡しのタイミングは、丁度同日の午後3時から期日が入っておりリアルタイムでは確認できなかったのですが、期日を終えて裁判所から事務所に帰る帰りの電車の中で無事に逆転無罪が出されたのをインターネット記事やツイッターで知りました。

同日は、裁判所で判決書と鑑定書を受け取ったのですが、その2つとも望外のいい結果で、期日を終えていい結果を抱えて事務所に帰る途中、コインハイブ事件も無罪という最判が出されたのをしり、今日はいい日だなという思いをさらに後押ししてくれるいい結果でした。

なぜこれだけ肩入れしているかというと、コンテンツのマネタイズは最高裁判決でも述べられているとおり、情報の流通にとって重要です。付言すれば、文化の発展に不可欠だからです。その方法は多様な方が望ましく、軽々に犯罪とすべきではないと考えていました。

ウェブサイトの運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みは,ウェブサイト による情報の流通にとって重要であるところ,被告人は,本件プログラムコードを そのような収益の仕組みとして利用したものである上,本件プログラムコードは, そのような仕組みとして社会的に受容されている広告表示プログラムと比較して も,閲覧者の電子計算機の機能や電子計算機による情報処理に与える影響において 有意な差異は認められず,事前の同意を得ることなく実行され,閲覧中に閲覧者の 電子計算機を一定程度使用するという利用方法等も同様であって,これらの点は社 会的に許容し得る範囲内といえるものである。

最小一判令和4年1月20日・裁判所ウェブサイト

最高裁判決から読み解けるコンテンツマネタイズの留意点

なお、最高裁判所の判決の書き振りからも、一応コインハイブなど未知のマネタイズ手法については、サイト上に明記して確認をとった方がより安全かもしれません。

本件プログラムコードの動作は,Xの閲覧中,閲覧者の電子計算機を使用し てマイニングを行わせるというものである。 一般的なウェブサイトにおいて,運営者が閲覧を通じて利益を得る仕組みとして 広告表示プログラムが広く実行されている実情に照らせば,一般の使用者におい て,ウェブサイト閲覧中に,閲覧者の電子計算機を一定程度使用して運営者が利益 を得るプログラムが実行され得ることは,想定の範囲内であるともいえる。 しかしながら,そのようなプログラムとして,本件プログラムコードの動作を一 般の使用者が認識すべきといえるか否かについてみると,Xは,閲覧中にマイニン グが行われることについて同意を得る仕様になっておらず,マイニングに関する説 明やマイニングが行われていることの表示もなかったこと,ウェブサイトの収益方 法として閲覧者の電子計算機にマイニングを行わせるという仕組みは一般の使用者 に認知されていなかったことといった事情がある。これらの事情によれば,本件プ ログラムコードの動作を一般の使用者が認識すべきとはいえず,反意図性が認めら れる。

本件プログラムコードは,Xの運営者である被告人が,X閲覧を通じて利益 を得るため,閲覧者の同意を得ることなく,その電子計算機においてマイニングを 行わせるために保管したものである。 確かに,原判示のとおり,本件プログラムコードによるマイニングは,閲覧者の 同意を得ることなくその電子計算機に一定の負荷を与え,これに関する報酬を閲覧 者が取得することができないものであるのに,閲覧者にマイニングの実行を知る機 会やこれを拒絶する機会が保障されていないなど,プログラムに対する信頼という 観点から,より適切な利用方法等が採り得たものである。

最小一判令和4年1月20日・裁判所ウェブサイト

最高裁判例は、マネタイズ手法が一般的に認知されていることや、そうで無い場合は特にウェブサイト上で同意を取ったり、一般的ではないマネタイズ手法を採用していることを周知すれば反意図性も否定される余地を残しているように読めました。

今回は、事件当時コインハイブが一般的でなく、かつ、ウェブサイト上でも同意も取らず、周知もされていなかった点から反意図性は肯定される(せざるを得ない)と判断しているように読めました。

裏を返せば一般的に周知されていないマネタイズ手法もウェブサイト上で周知しておけば反意図性を否定できる可能性があろうかと思います。