出版大手4社がクラウドフレアに対して訴訟提起ープロバイダの侵害主体性とプロバイダ責任制限法適用の可否ー

日本でも最大規模の大手出版社4社が米国CDN事業者クラウドフレアに対して訴訟を提起したとして話題になっています。

クラウドフレアとCDN事業

クラウドフレアは、米国の大手CDN事業者です。

CDNは、コンテンツデリバリーネットワークの略称です。

CDN事業者は、コンテンツの負荷を分散し高速でのサイト閲覧を可能にしています。

その役割が、オリジンサーバーに保存されたコンテンツをキャッシュするキャッシュサーバーの提供によって担われています。

ユーザーからのコンテンツの送信要求に対する接続先をキャッシュサーバーへ誘導する名前解決には、C NAMEによるクラウドフレアのキャッシュサーバーの割り当てなどが利用されているようです。

このドメインネームサーバーもクラウドフレアが提供している場合があるようです。

法的論点

著作権侵害主体性

著作権侵害主体性について、特に差し止めの可否の部分で、クラウドフレアを自動公衆送信主体と評価できるかなどが問題となるでしょう。

参考になる裁判例は、東京地判平成16年3月11日・裁判所ウェブサイト[2ちゃんねる事件]です。

著作権法112条1項は,著作権者は,その著作権を侵害する者又は侵害 するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる旨を 規定する。

同条は,著作権の行使を完全ならしめるために,権利の円満な支配状態 が現に侵害され,あるいは侵害されようとする場合において,侵害者に対し侵害の 停止又は予防に必要な一定の行為を請求し得ることを定めたものであって,いわゆ る物権的な権利である著作権について,物権的請求権に相当する権利を定めたもの であるが,同条に規定する差止請求の相手方は,現に侵害行為を行う主体となって いるか,あるいは侵害行為を主体として行うおそれのある者に限られると解するの が相当である。

けだし,民法上,所有権に基づく妨害排除請求権は,現に権利侵害 を生じさせている事実をその支配内に収めている者を相手方として行使し得るもの と解されているものであり,このことからすれば,著作権に基づく差止請求権につ いても,現に侵害行為を行う主体となっているか,あるいは侵害行為を主体として 行うおそれのある者のみを相手方として,行使し得るものと解すべきだからであ る。

この点,同様に物権的な権利と解されている特許権,商標権等についても,権 利侵害を教唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して一般的に差止請 求権を行使し得るものと解することができないことから,特許法,商標法等は,権 利侵害を幇助する行為のうち,一定の類型の行為を限定して権利侵害とみなす行為 と定めて,差止請求権の対象としているものである(特許法101条,商標法37 条等参照)。

著作権について,このような規定を要するまでもなく,権利侵害を教 唆,幇助し,あるいはその手段を提供する行為に対して,一般的に差止請求権を行 使し得るものと解することは,不法行為を理由とする差止請求が一般的に許されて いないことと矛盾するだけでなく,差止請求の相手方が無制限に広がっていくおそ れもあり,ひいては,自由な表現活動を脅かす結果を招きかねないものであって, 到底,採用できないものである。

イ これを本件についてみるに,前記の「前提となる事実関係」(前記第2, 1)に記載の各事実に弁論の全趣旨を総合すると,被告は本件電子掲示板を設置, 運営する者であるが,本件電子掲示板は300種類以上の個別のテーマの電子掲示 板から構成され,各個別のテーマの電子掲示板の中に多数のスレッドが存在してい ること,本件電子掲示板は公衆の用に供されている電気通信回線(インターネッ ト)を介して無料でだれでも利用することができ,発言をしようと思う者は自由に スレッドに書き込みを行うことができるものであること,書き込まれた発言は直ち に機械的に送信可能化され,被告は送信可能化前に書き込みの内容をチェックした り,改変したりすることはできないこと,本件各発言も,利用者たる本件発言者が 本件スレッドに書き込んだものが機械的に送信可能化され,自動公衆送信されたも のであること等の事情が認められる。

上記の各事実に照らせば,本件各発言について送信可能化を行って本件各 発言を自動公衆送信し得る状態にした主体は本件発言者であって,被告が侵害行為 を行う主体に該当しないことは明らかである。

そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公 衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。

東京地判平成16年3月11日・裁判所ウェブサイト[2ちゃんねる事件]

基本的には、クラウドフレアの不作為などが、幇助や教唆ではなくクラウドフレア自身の著作権侵害行為と評価できるかがポイントとなりそうです。

ただし、差し止めについてはクラウドフレアの侵害主体性が問題となるとしても、下記に述べるとおり損害賠償請求については、プロバイダ責任制限法の適用を前提とすると、侵害主体性の議論はプロ責法の争点に吸収されてしまうでしょう。

損害賠償請求におけるプロバイダ責任制限法の適用

つまり、クラウドフレアが著作権の侵害主体と評価できたり、著作権侵害の幇助者と評価できたとしても、損害賠償責任については、クラウドフレアの責任は作為の場合について「発信者」と評価できる場合以外、あるいは不作為の場合についてプロ責法の例外要件に当たらない場合、免責されてしまいます。

特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。

一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。

二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第3条1項

そうすると、損害賠償請求については侵害主体性だけでは不十分で、さらに作為の著作権侵害と評価できる行為について「発信者」と評価できるか、不作為の著作権侵害と評価できる行為についてプロバイダ責任制限法の定める免責の例外に当たるかが、中心的な問題になると考えられます。

これらの点から、損害賠償請求については、結局本件はプロバイダ責任制限法の適用が主要な争点になると思われます。

クラウドフレアにプロ責法の適用はあるのか

では、そもそもクラウドフレアにプロバイダ責任制限法の適用はあるのでしょうか。

この問題は、クラウドフレアが「関係役務提供者」(プロ責法3条1項柱書)に該当するかの問題が検討の中心の一つです。「関係役務提供者」は、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」です。

また、「特定電気通信役務提供者」は、「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう」と定義されています(プロ責法2条3号)。

のちに検討する発信者性と共に、海賊サイトの配信が「他人の通信」か否かが問題となります。つまり、クラウドフレアが自己の通信として海賊サイトを配信していると評価できるのか、あるいは他人の通信にCDNを提供しているにすぎないのか、という問題です。ただし、状況から海賊サイトについてさすがにクラウドフレアをして自身の通信として自ら配信しているという評価付は困難ではないかと思われます。

そうすると、クラウドフレアについては一般的なレンタルサーバー事業者と同等のコンテンツプロバイダとしての地位を見出していくほかないのではないかと思われます。

つまりクラウドフレアは原則的に損害賠償責任を免責されるので、例外的に損害賠償責任を負うべき場合か否かが問題となります。

作為の例外ークラウドフレアが「発信者」に当たるか

仮にクラウドフレアが著作権侵害の主体性、例えば共同不法行為や、幇助など能動的な著作権侵害責任を認められても、プロ責法により、「発信者」と評価できない場合は免責されます。

プロバイダ責任制限法上、「発信者」は、「特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう」と定義されています。

情報の入力主体などと評価する余地はないわけではないように思われますが、よほどの事情がない限り、CDN事業者であるクラウドフレアを発信者と評価するのは難しいでしょう。

ただし、ひょっとする出版社側としては余程の事情と考える事柄があって、今回提訴に至ったのかもしれません。

この点についてはリンク先でさらに検討しています。

不作為の例外プロ責法3条1項各号の要件を満たすか

結局損害賠償請求については,不作為による著作権侵害責任(幇助や共同不法行為を含む)について、プロ責法3条1項各号の要件を満たすかどうかが問題となりそうです。

参考になるのは、傍論ながら、本件と同様にプロバイダ(コンテンツ・プロバイダ)に対する例外要件の検討が示されている2ちゃんねる事件です。

これを本件についてみるに,編集長Iが平成14年5月10日に被告に対 して行った削除要請は,電子メールで「私は小学館少コミCheese!の編集長 をしているIと申します。2ちゃんねるの少女漫画サイトの『うんざりだって★ A』で小社刊の『ファンブック 罪に濡れたふたり~kasumi~』の18ペー ジにわたる座談会ページの全文が公開されており,これは明らかに著作権侵害です ので,すみやかに削除をお願いいたします。」という内容を述べるにとどまるもの であり(甲4),その後に被告からの返答を受けて同年5月13日に行われた再度 の要請においても「削除依頼板へ,というご返事をいただきましたが,私の申し上 げたことに対するお答えとして,筋が違うと思います。

さらに5月10日以降,現 在までに,704~707で座談会の続きが公開され,また,720~725,7 28~748において,もうひとつの対談記事も11ページ分全文が公開されてい ます。」という内容を述べるにとどまるものである(甲6)。これらの電子メール による要請だけでは,真正な著作権者からの申告かどうかも明らかでなく(上記各 電子メールの差出人は「I」となっているが,同電子メール上,「I」と原告C, E,H及びGとの関係は全く不明である。),同電子メールの内容も,具体的に著 作物の内容を示した上でどの部分が著作権侵害かを特定して申告するものでもな く,仮に被告が,同電子メールによる権利侵害との申告を軽信して,著作権侵害か どうかの判断を誤って過剰に発言を削除した場合には,かえって,書き込みをした 者から非難されるおそれがあること,自由な表現活動を保障する観点から他人の表 現行為について第三者が介入することには慎重さが求められるべきであることも考 慮するならば,この程度の内容の電子メールを受け取ったからといって,被告にお いて権利侵害の事実を知っていたか,あるいはこれを知ることができたと認めるに 足りる相当の理由があったということはできず,送信可能化又は自動公衆送信の防 止のために必要な措置を講ずべき特段の事情があったとは認められない。

ちなみ に,前記のプロバイダ責任制限法3条1項においては,特定電気通信(上記のとお り本件スレッドにおける発言の書き込みの送信可能化及び自動公衆送信も,これに 含まれるものと解される。)による情報の流通により他人の権利が侵害された場合 において,特定電気通信役務提供者(上記のとおり本件被告も,これに該当するも のと解される。)は,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵 害されていることを知っていたとき(同項1号),あるいは,特定電気通信役務提 供者において情報の流通を知っていた場合であって,当該特定電気通信による情報 の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足 りる相当の理由があるとき(同項2号)のいずれかの場合に該当する場合でなけれ ば,権利侵害によって生じた損害について損害賠償責任を負わない旨が規定されて いる。

本件においても,被告が条理上の作為義務を負うものかどうかを判断するに 当たっては,この規定の趣旨を尊重するのが相当であるが,上記に認定したとお り,被告において,原告らの権利侵害の事実を知っていたということはできない し,権利侵害の事実を知ることができたとも認められないのであって,同規定の下 においても,被告が原告らに対して損害賠償責任を負い得る場合には当たらないも のというべきである。

したがって,本件の事実関係の下においては,そもそも,被告に本件各発 言の送信可能化及び自動公衆送信を防止すべき作為義務があったと認めることはで きないし,被告に過失があったと認めることもできない。

ウ 以上のとおり,原告らの損害賠償請求は,いずれも理由がない。

そうすると,原告らは,被告に対して本件各発言の送信可能化又は自動公 衆送信の差止めを請求することはできないものというべきである。

東京地判平成16年3月11日・裁判所ウェブサイト[2ちゃんねる事件]

上記の裁判例の事例と異なり、出版社側は、クラウドフレアと大手出版社の交渉の状況などに照らせば、プロバイダ責任制限法3条1項2号などの適用可能性は十分にあると考えられるかもしれません。

つまり、 クラウドフレアに不作為の著作権侵害責任を認めるには、「当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」、あるいは「当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」 という要件を満たすかどうかが問題となります。

この辺りは、事実関係次第となりそうですが、満を持しての訴訟提起であり、出版社側は勝訴に十分な状況が整ったと判断していることも想定できます。この部分は、どれだけの状況が揃っているか次第のところであり、状況を把握していない部外者として、コメントをしたり裁判の帰結を予想しても無意味な部分かと考えています。

著作権法47条の4の適用

次に著作権法47条の4の適用が問題となる可能性があります。ただし、海賊サイトへのアクセスを容易にすることが著作権者の権利を不当に害することは明らかです。著作権法47条の4第1項の適用は困難でしょう。

1 電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。以下この条において同じ。)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合において、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑又は効率的に行うために当該著作物を当該電子計算機の記録媒体に記録するとき。

二 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該他人の自動公衆送信の遅滞若しくは障害を防止し、又は送信可能化された著作物の自動公衆送信を中継するための送信を効率的に行うために、これらの自動公衆送信のために送信可能化された著作物を記録媒体に記録する場合

三 情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合において、当該提供を円滑又は効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うことを目的として記録媒体への記録又は翻案を行うとき。

2 電子計算機における利用に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 記録媒体を内蔵する機器の保守又は修理を行うために当該機器に内蔵する記録媒体(以下この号及び次号において「内蔵記録媒体」という。)に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該保守又は修理の後に、当該内蔵記録媒体に記録する場合

二 記録媒体を内蔵する機器をこれと同様の機能を有する機器と交換するためにその内蔵記録媒体に記録されている著作物を当該内蔵記録媒体以外の記録媒体に一時的に記録し、及び当該同様の機能を有する機器の内蔵記録媒体に記録する場合

三 自動公衆送信装置を他人の自動公衆送信の用に供することを業として行う者が、当該自動公衆送信装置により送信可能化された著作物の複製物が滅失し、又は毀損した場合の復旧の用に供するために当該著作物を記録媒体に記録するとき。

著作権法第四十七条の四(電子計算機における著作物の利用に付随する利用等)

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