刑事訴訟法:論点:証拠法:証拠法総則

証拠法:証拠法総則

①-①証拠裁判主義:事実の認定は証拠による(317条)。古代の証拠によらない神判を排し、厳格な証明を採用する趣旨と解される。したがって、この場合の「証拠」とは適式な証拠調べ手続を経た、証拠能力を有する証拠をさす(最判昭和38年10月27日参照)。

①-②事実:では、証拠により認定されなければならない「事実」とはどの範囲だろうか。すべての事実を含むとすれば、手続きが煩雑になりすぎる。したがって、「事実」とは、刑罰権の存否ないしはその範囲を確定する事実を指すものと解する。
①-②-①アリバイ事実:アリバイ事実は犯罪事実の不存在を基礎付ける間接事実である。間接事実の証明は、主要事実の証明に従うべきであるから、アリバイ事実の証明も、厳格な証明によるべきである。
①-②-②共謀事実:共同正犯における共謀の事実も、罪となるべき事実として刑罰権の存否を確定するから、厳格な証明の対象となる(最大判昭和33年5月28日)。
①-②-③訴訟法的事実:訴訟法的事実は自由な証明の対象とされる(最判昭和58年12月19日-62事件)。
注1)訴訟条件については、実体法上の処罰条件と同視できるとして、厳格な証明によるべきとする見解がある。
注2)証拠能力を基礎付ける事実については、その重要性から厳格な証明によるべきとする見解がある。特に自白の任意性については、自白の証拠としての重要性から、厳格な証明によるべきとする説が根強い。
①-②-④情状事実:情状事実は、確定された刑罰権の存在、範囲の中で、どの程度の刑を課すかという量刑の問題に過ぎないから、自由な証明でたる。
注1)もっとも、なんらの証明も無く余罪を認定し、情状に加えて量刑することは許されない(東京高判昭和62年1月28日-63事件)。
注2)また、犯罪事実を構成する事実が情状事実としても用いられる場合、犯罪事実として厳格な証明によることは当然である。

③自由心証主義:証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる(318条)。自白を偏重する法廷証拠主義を排除し、複雑な事象にも対処可能な自由心証主義を採用する趣旨である。もっとも、証拠の採用自体は自由でなく、証拠能力のある証拠を如何に判断するかを委ねた。また、自白から有罪を確信しても、補強証拠が無い限り、有罪とはできない(319条2項)。自由心証主義の唯一の例外である。

④証拠の証明力:裁判官の自由な判断に委ねられる「証拠の証明力」とは、ⅰ証拠と事実の関連性(狭義の証明力)および、ⅱ証拠の信用性の2つの要素からなる。関連性は、証拠が事実を推認させる程度であり、信用性は、その証拠がどの程度信用できるかの問題である。
注1)犯人しか知りえない情報を含む供述(秘密の暴露)には、高い信用性が認められる。