賠償額の算定について

民法第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法709条は上記のように定めています。

不法行為により他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合,損害賠償義務を負う場合があることになります。

では,「損害」とは,何を指すのでしょうか。この点,不法行為に誘発された被害者の経済的状況の変化による差異そのものが損害であるとする損害差額説が,有力です。

民法722条1項は民法417条を準用しており,損害は金銭で賠償されるのが原則です。したがって,不法行為により生じた経済的な差異,すなわち,被害者が失った権利・利益の金銭的評価そのものを損害と捉えることが自然とも考えられます。

これに対して,損害を事実と捉える立場もあります。

しかし,いずれの立場に寄っても,被害者に生じた損害を金銭的にどのくらいの金額に評価していくか,という困難な問題が,実務において避けて通れません。また,交渉や訴訟などの場面でほとんど必ず大きく問題となるのが,いったいいくら賠償してもらえばよいのか,すればよいのか,という賠償額の算定の問題です。

この損害額を最終的に決定していくのは,裁判所です。当事者の主張,立証に基づいて,損害額を認定していきます。また,仮に立証が困難な場合には当事者の主張・立証でカバーできない部分について,裁判所が自ら損害額を積極的に算定していくこともあります。例えば,民事訴訟法第二百四十八条は「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。 」と定めています。

この規定から読み取れるように,第一次的には,損害賠償を請求する者が,損害の額を立証しなければならないのですが,立証が極めて困難な場合,裁判所が損害額を決めていくケースが認められていることになり,法律上,損害額の算定には,裁判所に大きな権限が認められている事が垣間見えます。

そして,このような裁判所の損害額の認定は,集積され,また,事案ごとに大きな差がつかないように,裁判所内部で一定程度基準化されていると言われています。

そうした,裁判所の基準を分析して公表している書籍などもあります。たとえば,交通事故においては,俗に赤い本と呼ばれる書籍が刊行されており,交通事故事例における裁判所の判断基準とほぼ同水準の基準を読み解くことが出来ます。

紛争解決に必要なのは,こうした客観的な評価基準を知ることになります。もし,交通事故をはじめとする不法行為被害や,あるいは,加害について,いくら請求していいかわからない,いくら支払えばいいのかわからないというお悩みをお持ちであれば,一度専門家の法律相談によって,客観的な賠償額の水準を知ることをお勧めします。客観的な基準が分からなければ紛争は長期化しやすいと言えるのではないでしょうか。