国家賠償法2条の法的論点

国家賠償法2条:公の造営物の設置、ないし管理に瑕疵があったために損害が生じた場合、国民は、国そのたの行政主体に対して、損害賠償請求権を認められます。当該規定は、民法717条の確認的規定とされます。すなわち、公の造営物の設置、管理は、非権力的作用であり、民法717条の適用があるにも拘らず、国賠法2条が定められたのは、国家の公の造営物の管理、設置の瑕疵について、国家が無過失責任を負うことを確認した規定と考えられます。

①公の造営物:公の造営物とは、公物と同義で、国ないし公共団体により、直接、公の目的のために共用される有体物をいいます。公の目的とは、官公署のように供される目的と、公衆の用に供される目的があり、前者を公用物、後者を公共用物とよびます。公物の使用については、自由使用、許可使用、特許使用などの利用形態があります。動産、不動産および、人工物、自然物を問わず、公物に該当します。また、他人が所有する財物でも、公の目的のために共用されている有体物であれば、公の造営物概念に含まれます。公の目的に供されていない物は、国家の所有に属しても、公の造営物には含まれないことになります。

②設置・管理の瑕疵:設置または管理の「瑕疵」概念については、客観的に安全性を欠いた状態を指すとする、客観説と、設置者、管理者に、安全管理上義務違反が認められる場合を指すとする、主観説が対立します。最高裁(最判昭和45年8月20日-高知落石事件)は、客観説を採用したかに見えましたが、次第に概念を変容させ、造営物の構造、設置場所、利用態様などに照らし、個別具体的に判定すべきとしています(最判昭和53年7月4日)。
②-①道路の瑕疵:前掲高知落石事件において、判例は、瑕疵とは通常有すべき安全性を欠いていることとして、客観説を採ることと、管理者の過失は問題とならないことを判示しました。また、予算不足も抗弁とならないとしました。反面、当該事故の結果を避けることができなかったときは、免責されるとしました(不可抗力の抗弁)。たとえば、赤色等を他車が倒し、道路が通常の安全性を欠くに至っていても、その直後に事故が生じた場合は、道路を現状に服することが時間的に不可能であったとして、「瑕疵」に当たらないとしています。ここでは、管理者の不可抗力が、「過失」という考慮が否定された概念ではなく、「瑕疵」という概念の中に読み込まれることになります。
②-②機能的瑕疵:もっとも、造営物自体が通常の安全性を有している場合にも、「瑕疵」概念該当性を認める判例もあります。すなわち、造営物に物理的な瑕疵がなくとも、特段の措置を講じることなく造営物を運営すれば、危害を生じる危険性がある場合も、「瑕疵」に含まれるとした判例があります(最大判昭和56年12月16日-大阪空港訴訟)。すなわち、造営物自体に物理的な瑕疵がない場合でも、造営物の運用により危険性が発生する場合も、瑕疵に該当することになります。また、国道においても、国道自体に瑕疵がなくても、運行する自動車の排気ガスなどにより周辺住民の健康、生活を害する危険性がある場合には、「瑕疵」に該当するとされます。機能的瑕疵の考え方の裏側には、損失補償的配慮があります。
②-③河川管理の瑕疵:国家賠償法2条1項は、公の造営物として河川を例示しています。したがって、河川は、造営物にあたるが、そもそも河川は自然物として、氾濫、洪水など人の生命、身体、財産に危害を加える危険性を内包しているから、従来の「瑕疵」概念では適切に事案を処理できません。そこで、もともと危険性を内包する河川の安全性は改修工事を経て徐々に実施されるところ、河川の改修には一定の制約が存します。したがって、未改修河川および、改修中の河川においては、制約に照らして同種同規模の河川においてされる管理の一般水準に照らして是認できる安全性を有していれば、「瑕疵」はないとされました(最判昭和59年1月26日-大東水害訴訟)。もともと有する危険性は「瑕疵」の対象とならず、制約に照らして、全国水準の改修状況であれば足りるとされたのです。したがって、通常の改修状況にあれば、工事や計画に不合理な点があるなどしない限り、瑕疵は認められないことになります。
②-④改修済み河川:では、改修がされ、ある程度人の管理が及んだ改修済み河川において、「瑕疵」とはどのような場合に認められるのでしょうか。この点について、判例(最判平成2年12月13日-多摩川水害訴訟)は、改修の基礎となった工事計画策定の時点で予想された規模の洪水から、人の生命、身体、財産に危険が生じない程度の安全性をもって、「瑕疵」がないとしています。すなわち、工事開始時に通常想定される規模の洪水に対応できる安全性が実現できていれば、足りると考えられます。また、改修時に予見不可能であっても、災害時にまでには予見が可能となっていた水害については、予見可能となった時点から、災害までの間に、対処が可能であったにもかかわらず、これを怠った場合、瑕疵が認められるとしました。そして、対処が可能であるか否かについては、改修に基づく制約が加味され、堰などは、制約が相対的に小さいといえます。