女子受験生の一律減点問題

性差別による不合理な取り扱いに不法行為の成立を認め、損害賠償請求を一部認容した事例として、下記に一部引用している、平成17年3月28日大阪地方裁判所第5民事部判決(平成7年(ワ)7992号・住友金属工業(男女差別)事件)があります。

同判例では、賃金格差分の逸失利益の他、慰謝料として300万円、250万円、200万円、150万円がそれぞれ認められています。

また、下記引用判例にみるように、私人間での平等権違反に基づく不法行為の成立は、諸般の事情を考慮して慎重にその差別的取り扱いの合理性が判断されることになります。

今回の女性減点問題も、大学側の減点の理由や、その理由の合理性、減点の影響の度合いなど様々な点から総合的な判断がされるべき事案であると思料されます。

また、損害との因果関係などの立証では減点と合格不合格の因果関係が立証できる場合とできない場合で、請求できる損害費目も相当変わってくるのではないかと思います。

 

平成17年3月28日大阪地方裁判所第5民事部判決(平成7年(ワ)7992号・住友金属工業(男女差別)事件)より抜粋

…略…

(イ) この点について、被告会社は、前記第2の3(1)の被告会社の主張エ(ア)のとおり、本件格差は本件コース別取扱いに基づき、初任の職分職級や個人職分点において一定の格差を設けたのみならず、入社時における長期実習の有無はもとより、その後の業務配置・異動、教育・研修においても全く別異に取り扱った結果、必然的に両者における業務遂行上の能力伸長度合いや業務実績の違いを形成したため生じたものであると主張しているので、以下において検討する。
a 被告会社においては、事務職については、前記第2の1(3)で述べたような職分制度(いわゆる職能資格制度)を採用し、昇進・昇級については、前記第2の1(3)イのとおり、能力評価要綱に基づき従業員各人の能力評価を行い、能力区分・能力評価区分とこれに基づいて決まる基本職分点により個人職分点を算出し、昇進資格点に達した者につき、自動昇進又は選抜昇進により、昇進・昇級を行う建前になっている。
しかし、前記第2の1(5)及び証拠(乙30)によれば、能力評価の三つの要素として挙げられている技能度(〈1〉熟練の程度、〈2〉仕事の実績、〈3〉仕事の応用力)、勤怠(勤務状況)、人的特性(〈1〉積極性、〈2〉協同性)のうち、熟練の程度は「現在の仕事」について、仕事の実績は「与えられた仕事」について、仕事の応用力も、現に担当している職務遂行の際の「状況の変化」や「新任務に対する応用能力」を評定するとされているのであるし、勤怠や人的特性もいずれも現に担当している職務における勤務状況や勤務態度を評定することとされているのであるから、被告会社が本件コース別取扱い(被告会社が主張する採用区分)に基づき高卒男性事務職をより基幹的な業務に、高卒女性事務職を補助的・定型的業務に、それぞれ配置したからといって、その職務内容の違いが直ちに前記三つの要素における評価の差異となって現れるとはいい難い。
もっとも、前記第2の1(5)及び証拠(乙30)によれば、被告会社は、評点(200点満点)のうち、仕事の応用力と積極性にそれぞれ50点という大きな比率を与えているところ、専門執務職以上の評価の際には、〈1〉仕事の応用力につき、責任の重い上位の職務に就かせることができる能力、潜在性を有するかどうか、〈2〉積極性について、管理職を与え得る将来性を有するかどうかの観点から評定するとしていることが認められるのであるから、専門執務職以上の者の評定においては、被告会社が、本件コース別取扱いに基づき、高卒男性事務職をより責任の重い上位の職務に就かせることを予定して採用し、基幹的業務に就かせ、OJTや種々の研修を施すことにより、高卒男性事務職の前記各点に関する評点が高まり、それが高卒事務職の専門執務職以上の昇進について差異となって現れた可能性は否定できない。
しかし、責任の重い上位の前記職務に就かせることができる能力や潜在性、また管理職を与え得る将来性というのは、労働者であれば誰しも有しているというようなものではない秀でた能力や将来性をいうと考えられるから、被告会社が本件コース別取扱いに基づき、高卒男性をそれらの職務等に就かせることを前提に採用し、また一定の研修を施したからといって、それらの者の中でも当然差異が生じて然るべきものであるが、後記のとおり、高卒男性事務職は、専門執務職以上においても前記第2の1(8)アや後記(d)のとおりほぼ年功的に昇進しているのであり、その運用が本件コース別取扱いに基づく合理的なものであるとはいい難い。
そして、被告会社も、本件コース別取扱いが前記要素につきどのような差異となって現れ、基本職分点等に差異が生じるか、その具体的な運用について何らの主張もしていない。
ところが、前記第2の1(3)イ及び同(8)ア(ア)、(ウ)によれば、以下の事実が認められる。
(a) 専門執務職における自動昇進資格点は選抜昇進資格点のほぼ倍以上になっており、能力評価が低位にとどまっている限り、同じ職分職級に長期間にわたって格付けられることになる。
(b) 昭和42年職分制度改正後でいうと、見習として予備的訓練のため長期実習を命ぜられた者の実習終了後の職分職級は、一般執務職2級、個人職分点5点であるが、2年目に個人職分点が5点であった事務職が、入社後5年間で一般執務職を終えるためには、5年目に一般執務職1級に昇進している必要があり、そのためには個人職分点が10点以上でなければならない。そして、一般執務職における能力評価「A」の職分点は1.55点であることからすると、3年間に「A」又は「A」を超える能力評価を経なければ、前記長期実習を命ぜられた事務職であっても、5年間で一般執務職を終えて専門執務職には昇進できない。
(c) 専門執務職から企画総括職に、また、企画総括職において昇級するためには、選抜昇進がされなければならない。
そして、企画総括職3級に昇進後、8年目に管理補佐職に昇進するためには、8年目の個人職分点が40点以上にならなければならず、7年間の評価の平均がA評価に近いものでなければならない。
(d) 高卒男性事務職は、全員が(そのうち99.1%は入社後6年目で)専門執務職に、専門執務職に昇進した者の99.7%が企画総括職に、企画総括職に昇進した者の97.6%が(そのうち同職の在籍期間7年以下で昇進した者が全体の73.8%であり、勤続年数でいうと入社23年目までに全体の89%が)管理補佐職に、それぞれ昇進している。
(e) 他方、平成7年6月1日の時点で被告会社に在籍している高卒女性事務職については、入社28年目以上の者は2名を除き専門執務職1級に昇進しているが、企画総括職2級に昇進している者は、管理補佐職に昇進している2名を除けば入社後33年以上経過した4名にとどまる。
以上によれば、高卒男性事務職は、そのほとんどが長期実習終了後の3年間を通じて能力評価Aを受け、企画総括職に昇進した後も、企画総括職が高度の専門的知識と経験を有することを前提とする職分であるにもかかわらず、その約4分の3が7年間平均してAに近い評価を得ているなど、高い評価を受けており、高卒女性事務職とは昇進において顕著な差異が生じている。
b 確かに、前記aのとおり、自動昇進資格点が選抜昇進資格点のほぼ倍以上に設定されており、企画総括職3級以上の昇進については、制度上、選抜昇進によらなければ昇進できない仕組みになっているため、専門執務職3級から管理補佐職1級に昇進・昇級するまでに設けられている選抜昇進の有無が従業員の昇進・昇級を大きく左右する。
そして、前記第2の1(3)イ(オ)のとおり、選抜昇進については、従業員の統率能力や従事している業務の複雑困難性、業務遂行能力等により行うことができるとされているのであるから、いくら能力評価が男女間で公平に行われている場合であっても、本件コース別取扱いに基づき、被告会社は、前記ア(ウ)で認定したとおり、高卒男性事務職には基幹的業務を、高卒女性事務職には補助的・定型的業務を担当させている以上、選抜昇進においても、それに基づく差異が生じることは可能性として否定できないところである(もっとも、この点についても、被告会社は、そもそも本件コース別取扱いが具体的にどのようにして選抜昇進の有無に差異をもたらすのか、その具体的運用については何ら詳細な主張はしていない。)。
c しかし、前記男女間に差異が生じる可能性については、あくまでも能力評価が男女間で公平に行われていることが前提となるので、以下において能力評価制度の運用について検討する。
(a) 前記争いのない事実等、証拠(甲24、25、乙31、証人Z2(第1回))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ⅰ 被告会社では、査定者による能力評価のばらつきが目立つようになったとの指摘が人事部門からされたことにより、査定者に対し、自分が行った査定の結果により、各所属員の処遇がどうなるか、また、各所属員が全体の中でどのような位置付けにあるのかを分かりやすく示すために、平成3年度の定期査定のときから、従来の標準的な処遇の実態を表した人事部内部の資料として本件人事資料を作成した。
ⅱ 本件人事資料では、基本的に、事務職の従業員をその評価に応じて48通りに分け、0から47までの給与係数(各人ごとの評価点の持ち点で、評価及び評価の高さを示す指標)を割り振った上で、それらを16の評価区分(「S」ないし「E」)と、更にそれらを五つにまとめた査定区分(「イ」ないし「ホ」)に分類している。なお、被告会社は、査定区分、評価区分、給与係数を従業員には明らかにしていない。
被告会社は、査定運営上、年齢区分ごとに年功がほぼ同一の集団として扱うこととし、また、従業員の給与係数及び標準年齢と、基本給額や職能点、職分職級との対応関係を明らかにした資料を作成し、給与係数や標準年齢が、それらを決定する重要な要素とされた。
その上で、被告会社は、査定者が、自分のつけた査定が従業員の年収や職分職級にどのように関係してくるかを理解させるため、各所属員の年齢区分と査定区分・評価区分に対応した標準的な平均年収と職分職級の範囲をそれぞれ年収水準概要や職分職級運営概要として作成し、査定者は、それを参考に査定を行った。
また、被告会社は、各査定区分内において、年齢区分ごとに評価区分の人員分布比率の目安をモデル人員分布で定めた。
ⅲ 被告会社は、本件人事資料作成後に採用した従業員に対して採用時に当てはめる給与係数について、以下のとおり、学歴ごとに差異を設けていた。
学歴          給与係数(対応する査定区分)
〈1〉大卒者(U)    36点 イ
〈2〉高専卒者(K)   27点 ロ
〈3〉鉄鋼短大卒者(T) 18点 ハ
〈4〉高卒者(H)    9点 ニ
〈5〉一般職       0点 ホ
ただし、既に採用した従業員に対する処遇管理学歴ごとの標準的な運営幅を対応させると、以下のとおりになるとした。
学歴              給与係数(対応する査定区分)
〈1〉大卒者           36ないし47点 イ
(37歳時42点)
〈2〉高卒男性、短大卒、高専卒者 27ないし35点 ロ
(49歳時35点)
〈3〉BH            18ないし26点 ハ
(49歳時26点)
〈4〉LC            9ないし17点 ニ
(49歳時17点)
〈5〉一般職(高卒女性)     0ないし8点 ホ
(49歳時8点)
ⅳ 被告会社は、査定者のために、本件人事資料に、能力評価における能力評価区分と前記評価区分との関係を図示しており、査定者は、それに基づき、被告会社は、査定区分ごとに、基本的には以下のとおり能力評価を行い、能力評価区分を決定していた。
すなわち、当該従業員の年齢区分が変動しない年度は、能力評価において現行評価区分を変動させるような能力評価区分を当てはめることはしなかった。
また、年齢区分が変動した年度においても、査定者が、まず年収水準概要で、当該従業員の現行評価区分に対応する年収額を確認した上で、現行の評価区分の高さが、各人の実績・処遇・年功等からして妥当であると判断される場合には、評価区分を維持するよう、原則として以下のとおり査定した。
ただし、査定者が当該従業員の現行評価区分の高さが、各人の実績・処遇・年功からして、妥当でないと判断した場合は、評価区分を最大限一段階変動させることも可能とされた。
〈1〉 査定区分イの者のうち、
評価区分S又はOAの者には原則として能力評価区分OA
評価区分A+又はAの者には原則として能力評価区分A
〈2〉 査定区分ロの者のうち、
評価区分OBの者には原則として能力評価区分OAかA
評価区分B+又はBの者には原則として能力評価区分B+
〈3〉 査定区分ハの者のうち、
評価区分OCの者には原則として能力評価区分OAかA
評価区分C+又はCの者には原則として能力評価区分B+かB
〈4〉 査定区分ニの者のうち、
評価区分ODの者には原則として能力評価区分OAかA
評価区分D+の者には原則として能力評価区分B+かB
評価区分Dの者には能力評価区分BかC+
〈5〉 査定区分ホの者のうち、
評価区分OEの者には原則として能力評価区分OAかA
評価区分E+の者には原則として能力評価区分B+かB
評価区分Eの者には原則として能力評価区分BかC+
(この点は、査定区分ホに属する原告らが別紙1ないし4のとおり一貫してB以下の評価を受けてきたこととも符合する。)
そして、能力評価の運営イメージとしては、入社時に原則として各査定区分(評価区分)に当てはめられた者の37歳時及び49歳時の評価区分は、以下のとおりとされ、基本的には、査定区分の範囲内で運用していくことが想定されていた。
査定区分     入社時 37歳時 49歳時
イ  評価区分  A   OA  -
ロ  評価区分  B   B+  OB
ハ  評価区分  C   C+  OC
ニ  評価区分  D   D+  OD
ホ  評価区分  E   E+  OE
これによれば、各査定区分内における各評価区分のレベルは、前記入社時、37歳時、49歳時において、各査定区分の標準者に想定されている前記各評価区分(AないしE、OAとB+ないしE+、OBないしOE)がそれぞれ同程度にあるものとして対応しているものと考えられる。
ⅴ 以上のような本件人事資料の内容に沿った査定の結果、平成6年度及び平成7年度における高卒事務職及びLC転換者の入社年別の年収は、第2の1(8)イのとおりであり、これによれば、以下の事実が認められる。
〈a〉 高卒男性事務職は、入社29ないし31年目の者(平成6年度においては昭和39年ないし昭和41年に入社した者、平成7年度においては昭和40年ないし昭和42年に入社した者、以下同じ。)の平均年収(5万円刻みで概算する。以下同じ。)が、平成6年度は約850万円ないし895万円、平成7年度は約820万円ないし890万円となっている。
〈b〉 BHの平均年収は、入社20ないし22年目の者(平成6年度においては昭和48年ないし昭和50年に入社した者、平成7年度においては昭和49年ないし昭和51年に入社した者であるが、平成7年度については入社21年目の者(昭和50年に入社した者)までのデータしか存在しない。以下同じ。)が平成6年度は約605万円ないし615万円、平成7年度は約625万円、入社29ないし31年目の者が、平成6年度は約795万円ないし820万円、平成7年度は約790万円ないし810万円となっている。
〈c〉 LCの平均年収は、入社20ないし22年目の者が、平成6年度は約525万円ないし545万円、平成7年度は約535万円ないし約555万円、入社29ないし31年目の者が、平成6年度、平成7年度ともに約645万円ないし685万円となっている。
〈d〉 高卒女性事務職の平均年収は、入社20ないし22年目の者が平成6年度は約465万円ないし485万円、平成7年度は約475万円ないし495万円、入社29ないし31年目の者が、平成6年度は約585万円ないし595万円、平成7年度は約600万円となっている。
これに対して、年収水準概要において想定されている年齢区分ごとの査定区分ロないしホに該当する従業員の年収は以下のとおりであり、高卒男性事務職と査定区分ロに該当する職員、BHと査定区分ハに該当する職員、LCと査定区分ニに該当する職員、高卒女性事務職と査定区分ホに該当する職員の各年収がおおむね対応している。
〈a〉 標準年齢35、36歳(高卒の場合、入社18、19年目)で、査定区分ロに該当する職員は、下位の評価区分であるBに該当する者でも年収は635万円となり、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)で、そのうち中位の評価区分であるB+に該当する者の年収は915万円、上位の評価区分であるOBに該当する者の年収は945万円となり、同49ないし51歳(前同様の入社32ないし34年目)では、前記Bに該当する者でも年収は895万円となる。
〈b〉 標準年齢37ないし39歳(高卒の場合、入社20ないし22年目)で、査定区分ハに該当する職員中、中位の評価区分であるC+に該当する者の年収は620万円、下位の評価区分であるCに該当する者の年収は600万円であり、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)では、前記C+に該当する者の年収は785万円、上位の評価区分であるOCに該当する者の年収は825万円となる。
〈c〉 標準年齢37ないし39歳(高卒の場合、入社20ないし22年目)で、査定区分ニに該当する職員中、中位の評価区分であるD+に該当する者の年収は545万円、下位の評価区分であるDに該当する者の年収は520円であり、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)では、前記D+に該当する者の年収は675万円、上位の評価区分であるODに該当する者の年収は695万円となる。
〈d〉 標準年齢35、36歳(高卒の場合、入社18、19年目)で、査定区分ホに該当する職員は、上位の評価区分であるOEに該当する者でも年収は480万円にとどまり、同37ないし39歳(前同様の入社20ないし22年目)で、査定区分ホに該当する職員中、中位の評価区分であるE+に該当する者の年収は495万円、Eに該当する者の年収は480万円であり、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)では、前記E+に該当する者の年収は585万円、上位の評価区分であるOEに該当する者の年収は630万円となり、同49ないし51歳(前同様の入社32ないし34年目)では、前記OEに該当する者でも年収は665万円にとどまる。
ただし、年収水準概要に基づく前記年収額は、本件人事資料中の年齢区分と学歴・年次の対応に関する表(別表D〈2〉―3の下の表)について平成5年4月現在と記載されていることからすれば、平成5年度のものを記載したものと推認される。
また、年収水準概要には、補足事項として、「基準内賃金の合計金額(残業手当等は含まず)」と記載されていることが認められるものの、先で認定したとおり、〈1〉平成6年度及び平成7年度における従業員全体の臨給(一時金・賞与)をも含めた平均年収額と平成5年度の年収水準概要に記載された額がおおむね対応しており、証人Z2(以下「Z2」という。第1回)も前記金額に一時金・賞与が含まれている旨の証言をしていること、〈2〉年収水準概要の作成目的は査定者に当該評価区分に位置付けられている従業員の年収額を理解させることにあることなどからすれば、前記補足事項の記載は、必ずしも一時金や賞与を除外するという趣旨であるとはいい難く、就労状況等により従業員間で異なる残業手当等の基準外賃金が含まれていないことを注記する趣旨であると考えられる。
ⅵ 本件人事資料の内容に沿った査定の結果、平成7年6月に被告会社に在籍する高卒事務職やLC転換者の昇進状況は、前記第2の1(8)ア(ア)ないし(ウ)のとおりであり、これによれば、以下の事実が導かれる。
〈a〉 高卒男性事務職については、9割以上の者が一般執務職を5年、専門執務職を9年で終え、入社15年目には企画総括職に昇進し、全体の99%の者が入社16年目には企画総括職に昇進し、入社21年目には全体の約3分の1の者が、同25年目までには全体の95%の者が、同28年目までに全体の98%の者が、それぞれ管理補佐職に昇進している。
〈b〉 BHについては、入社20年目以上の者は全員企画総括職3級に昇進しており、入社27年目以上の者はおおむね企画総括職1級に昇進している。
〈c〉 LCについては、入社20年目以上の者はおおむね専門執務職1級に昇進しており、入社26ないし28年目の者はおおむね企画総括職3級に昇進している。
〈d〉 高卒女性事務職は、入社11年目以上の者は全員が専門執務職3級又は一般執務職1級に、入社28年目以上の者は2名を除き専門執務職1級に昇進しているが、企画総括職2級以上に昇進している者は、管理補佐職へ昇進している2名を除けば、入社34年目以上の者が4名いるにとどまる(なお、管理補佐職に昇進した2名の高卒女性事務職については、前記第2の1(8)ア(ウ)a(a)のとおり、昇進時期がいずれも平成7年4月であって、原告らを含む被告会社の女性従業員7名が旧均等法に基づき申し立てた調停における調停案の受諾勧告を拒否した直後である上、入社してから企画総括職3級に昇進するまでいずれも約30年かかっているにもかかわらず、その時期に3階級一挙に特進させていることは不自然であるというべきであるから、それをもって、高卒女性事務職を査定区分ホに位置付けていることを否定する根拠とすることは到底できない。)。
これに対して、証拠(甲25、28)によれば、職分職級運営概要において想定されている年齢区分ごとの査定区分ロないしホに該当する従業員の職分職級の状況は以下のとおりであると認められ、高卒男性事務職と査定区分ロに該当する職員、BHと査定区分ハに該当する職員、LCと査定区分ニに該当する職員、高卒女性事務職と査定区分ホに該当する職員の各昇進状況がおおむね符合している。
〈a〉 査定区分ロに該当する職員は、標準年齢31、32歳(高卒の場合、入社14、15年目)で企画総括職3級に昇進し、同33、34歳(前同様の入社16、17年目)で専門執務職にとどまっている者は存在せず、同35、36歳(前同様の入社18、19年目)で企画総括職2級に昇進し、同37ないし39歳(前同様の入社20ないし22年目)で管理補佐職に昇進するようになり、同40ないし42歳(前同様の入社23ないし25年目)で大部分が管理補佐職に昇進し、同43ないし45歳(前同様の入社26ないし28年目)で全員が管理補佐職に昇進する。
〈b〉 査定区分ハに該当する職員は、標準年齢35、36歳(高卒の場合、入社18、19年目)でおおむね企画総括職3級に昇進し、同37ないし39歳(前同様の入社20ないし22年目)で専門執務職にとどまっている者は存在せず、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)でおおむね企画総括職1級に昇進する。
〈c〉 査定区分ニに該当する職員は、標準年齢29、30歳(高卒の場合、入社12、13年目)で専門執務職3級に昇進し、同37ないし39歳(前同様の入社20ないし22年目)には全員が専門執務職1級に昇進し、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)で全員が企画総括職3級以上に昇進する。
〈d〉 査定区分ホに該当する職員は、標準年齢31、32歳(高卒の場合、入社14、15年目)で専門執務職3級に昇進し、同35、36歳(前同様の入社18、19年目)で専門執務職2級に昇進するようになり、同46ないし48歳(前同様の入社29ないし31年目)には全員が専門執務職1級に昇進するが、同46ないし同51歳(前同様の入社29ないし34年目)では優秀者であっても企画総括職3級に昇進するにとどまり、同2級以上に昇進する者はいない。
(b) この点について、被告会社は、前記第2の3(1)の被告会社の主張ウ及びエのとおり、男女で能力評価等で異なる取扱いをしていることはないとした上で、本件人事資料の前記記載はあくまでも、入社時の当てはめにすぎず、入社以降は、各人の能力発揮度合いに基づく能力評価の結果に基づき、評価区分を決定していたのであって、柔軟に前記給与係数、評価区分、査定区分が変更できることになっていたと主張し、証人Z1、同Z2(第1、2回)の各証言やZ2作成の陳述書(乙31)にはこれに沿う部分がある。
確かに、証人Z2は、査定区分ホ以外に該当する高卒女性事務職が数十名、LC転換者で査定区分ホに該当する者が数百人いると証言しているが、本件において、それを裏付ける客観的な証拠は見当たらないし、本件人事資料では、モデル人員分布にしても、年収水準概要や職分職級運営概要にしても、いずれも年齢区分と評価区分のみを要素として作成されている上、評価区分は年齢区分に変動がない以上は基本的には見直さず、変動する場合でも一段階にとどめるとしているなど、その運用においては、評価区分を最も重要かつ基本的には大幅に変動することのない要素として用いていることが窺われること、仮に、被告会社の主張のとおり、本件人事資料に基づく運用が能力評価区分を中心とするものであるとすれば、能力評価区分と評価区分の対応表についても、むしろ能力評価区分OAないしOCごとにそれに該当し得る評価区分を一定の幅をもって示す方が査定者には便宜であるというべきであるが、能力評価区分と評価区分の対応表は評価区分SないしEごとにそれに対応する能力評価区分を一定の幅をもって示しているのであるから、それはむしろ前記(a)ⅳで認定した運用をしていると推認するのが合理的であること(証人Z2も、まず、年収水準概要で従業員の年収を確認した上で、それが妥当かどうかを念頭に置きつつ、この能力評価区分をつければ、年収水準(評価区分)が変動するか否かを考慮しながら、評価する旨証言している(第1回)。)、被告会社は、前記(a)のとおり、本件人事資料において査定区分及び年齢区分ごとに標準的な年収と職分職級の状況を示し、基本的には人事考課において年功序列的な昇進・昇給の運用をしていたところ、前記(a)ⅴ、ⅵのとおり、学歴区分を査定区分とした場合に想定されている年収及び職分職級の状況が実際の従業員の年収及び職分職級の分布とほぼ符合していることがそれぞれ認められ、これらに照らせば、証人Z1及び同Z2の前記証言部分や同人作成の陳述書の前記記載部分は採用することができない。
なお、被告会社は、本件人事資料中のモデル人員分布において、査定区分ホに該当する者の人員が標準年齢37ないし39歳から減少することを想定していることを査定区分間において人員の移動がされている根拠として挙げているが、別紙6によれば、被告会社の高卒女性従業員の人員分布は、入社22年目(標準年齢39歳)から一桁台に減少し、その後減少傾向にあることが認められ、このことは、査定区分ホに該当する者が標準年齢37ないし39歳から減少することを想定していることと符合しており、これは、むしろ、被告会社が査定区分ホに高卒女性事務職を位置付けていることを裏付ける事実というべきであって、被告会社の前記主張は採用できない。
(c) 前記(a)ⅰのとおり、被告会社においては、本件人事資料が平成3年度から用いられるようになる以前においても、能力評価や昇進・昇級、昇給等の人事考課において、前記(a)で認定した本件人事資料に基づく運用と基本的には異ならない運用をしていたことが認められる(以下、これらの取扱いを含めて、「本件人事資料に基づく差別的取扱い」という。)。
(d) 以上によれば、被告会社は、本件人事資料に基づく差別的取扱いにより、高卒女性事務職に関しては、通常はOAからC-の能力評価区分の範囲内で評価を行い、仮にA以上の能力評価区分を受けても、原則として評価区分はOE(給与係数8以下)にとどめる一方で、高卒男性事務職に関しては、通常は最低でもB+の能力評価区分を与え、仮に最下位の区分に位置付けられても、原則として評価区分はB(給与係数27ないし29)に位置付ける運用を行った。そして、標準者の目安としては、高卒女性事務職では、入社時に評価区分E、37歳時にE+、49歳時にOEとなるように、一方、高卒男性事務職では、入社時に評価区分B、37歳時にB+、49歳時にOBとなるように運用していた。
その結果、職分職級運営概要及び年収水準概要によれば、35歳(入社18年目)の平均的な従業員において、高卒男性事務職は企画総括職2級以上に昇進するものの、高卒女性事務職は専門執務職2級にとどまり、年収格差が150万円以上に及び、49歳(入社32年目)ころになると、高卒男性事務職は管理補佐職に昇進しているのに対し、高卒女性事務職は優秀者であっても企画総括職3級にとどまり、年収において230万円もの大きな差異が生じることになったのである。
これは、高卒事務職において、同等の能力を有する者であっても、男女間で能力評価区分に差をつけるとともに、仮に同じ能力評価区分に該当するとしても、男女間において評価区分及び査定区分において明らかに差別的取扱いをし、それに基づき、昇給・昇進等の運用をしていたというべきであり、このような運用は、本件コース別取扱いと合理的関連を有するとは到底認め難いといわなければならない。

…中略…

2 本件差別的取扱いの違法性の有無(争点(2))について
(1) 本件コース別取扱いの違法性
ア 憲法14条は、法の下の平等を保障して、性別による差別的取扱いを禁止し、これを受けて、民法1条の2は、本法は個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として解釈すべき旨を規定し、労働基準法3条は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として労働条件について差別的取扱いを禁止するとともに、同法4条は、女性について賃金に関する差別的取扱いを禁止している。これらのことからすれば、使用者が、採用した労働者を合理的な理由なく性別に基づき、労働条件について差別的取扱いをすることは、民法90条の公序に反し、違法というべきである。
したがって、事業主が、同じ事務職として採用した従業員について、性別のみを理由として、賃金や昇進・昇格等の労働条件に関し、差別的取扱いをすることは、原則として公序に反し、違法というべきであるから、同種の業務を担当している従業員間において性別のみにより賃金や昇進・昇格等の労働条件について差別的取扱いをすることが違法であることはもちろん、従業員の個々の能力や適性等の具体的な差異に基づかず、男性従業員一般を女性従業員一般に比べて重用し、担当させる業務内容や受けさせる教育・研修等につき差別的取扱いをした結果、賃金や昇進・昇格等の労働条件に差異が生じた場合も、配転や処遇に関する差別的取扱いが公序に反し、違法というべきである。
イ 他方、憲法は、22条、29条等において、財産権の行使、営業その他の経済活動の自由をも保障しているから、事業主は、契約締結の自由を有し、労働者を雇用する、すなわち労働契約を締結するに当たり、いかなる者をいかなる条件で雇い入れるかについては、法律等による特別の制限がない限り、原則として自由とされている。
そして、労働基準法3条にいう「労働条件」には募集及び採用に関する条件は含まれないというべきであるし、同法4条も、募集及び採用について男女間で異なった取扱いをすることまで直接禁止するものではない。原告らが被告会社に採用された当時、ほかに募集及び採用に関し男女間で異なった取扱いをすることを直接禁止する法律等は存在せず、それらが禁止されたのは、前記取扱いをしないことを使用者の努力義務として定めた旧均等法が平成9年6月に改正され、改正均等法が平成11年4月1日に施行された時点からである(同法5条)。
しかも、証拠(乙29、31、証人Z1、同Z2(第1、2回))及び弁論の全趣旨によれば、前記当時、一般的に女性の勤続年数は男性よりも短く、全国的な異動も期待し難かったことが認められることをも考慮すれば、被告会社が、原告ら女性の高卒事務職の募集、採用に当たり、そのような時代背景を前提に、前記1(2)ア(エ)で認定したとおり、男性の高卒事務職と同一の取扱いをしなかったことは、前記アで述べた憲法14条が指向する男女の実質的平等の理念に沿うとはいえないものの、直ちに公序良俗に違反するとはいい難い。
なお、原告らは、前記第2の3(2)の原告らの主張オのとおり、女性差別撤廃条約が発効する前に採用された女性労働者についても、差別的採用により発生した配置、昇進の差別が条約発効後も引き継がれている場合には、前記条約に違反し、公序良俗に違反して不法行為を構成すると主張するが、前記条約の文言に照らしても、国内法の制定を待たずに当然に国内法的効力を有するとはいえないし、本件コース別取扱いが直ちに同条約に違反するとも認め難い。
ウ しかしながら、被告会社の高卒事務職の募集・採用時に男女間において前記1(2)ア(エ)で認定したコース別取扱いをすることが、直ちに公序良俗に違反しないとしても、そうであるからといって、採用後の高卒事務職の男女間の差別的取扱いのすべてが当然に公序良俗に違反しないと評価されるわけではない。
採用後の高卒事務職の男女間の差別的取扱いが、募集・採用時におけるコース別取扱いの差異に基づくものとは認められないか、又は、その差異に基づくものであったとしても合理性を有しない場合には、なお公序に反して違法というべきである。
これを翻っていうと、採用後の高卒事務職の男女間の取扱いの差異が、職種限定の合意や勤務場所限定の合意など、少なくとも採用時に高卒事務職の男女別に締結した労働契約に定められた労働条件の差異に基づく場合は、公序良俗に違反するとはいえないのであって、原告らの採用当時、高卒事務職の男女間で異なった労働契約を締結すること自体は、前記イで述べたとおり公序に反して無効とはいえない以上、前記労働契約に基づいて採用後も男女間で異なった取扱いをすることは、使用者にとって労働契約上の義務でもあるから、公序良俗に違反するとはいえない。
また、採用後の高卒事務職の男女間の取扱いの差異が、必ずしも労働契約の内容とされていなくても、募集・採用時における募集対象(学歴、地域等)、募集方法(公募、推薦等)、採用手続(筆記試験、面接の有無等)、採用条件(職種・勤務地限定の有無等)や、採用後に予定されていた就業場所(全国異動を前提とするものか否か)、職務内容等の差異に基づくもので、それらに照らせば合理的と評価できるものであれば、未だ公序良俗に違反するとまではいえない。
以上によれば、被告会社が、本件コース別取扱いに基づき、前記1(2)ア(ウ)のとおり、高卒男性事務職については、長期の実習を受けさせた後、全国の本社、事業所で基本的には基幹的な業務に就くことを命じ、職分協定に基づき、職級で1級、職分点で5点、高卒女性事務職よりも有利な取扱いをしていたのに対し、高卒女性事務職に対しては、採用した本社又は各事業所において、基本的には補助的な業務に就かせていたことは、未だ公序良俗に違反するとはいえない。
この点について、原告らは、前記第2の3(1)の原告らの主張ア(イ)cのとおり、将来の幹部候補か否かは被告会社の主観的な位置付けにすぎず、職種や職務内容に関わるものではないし、高卒事務職の男女間の職務内容は截然と区別できるものではないから、女性局長通達にいう客観的合理的な違いがあるとはいえないと主張するが、女性局長通達も、男女別の運用は当然否定しているものの、職務内容(定型的業務か否か)又は転居を伴う異動の有無によりコース別雇用管理をすること自体は容認していると解されるので、原告らの主張は採用できない。
(2) 本件格差とその合理性の有無
以上とは異なり、本件格差は、前記1(2)イで述べたとおり、被告会社が、本件人事資料に基づく差別的取扱いにより、同等の能力を有する高卒事務職であっても、男女間で能力評価において差別的取扱いをし、同じ能力評価区分に該当した者についても評価区分及び査定区分において明らかに差別的取扱いをし、それに基づき、昇給・昇進等の運用をしていたことによるものであって、本件コース別取扱いとは合理的関連を有するとは認め難いから、被告会社の本件差別的取扱いは、性別のみによる不合理な差別的取扱いとして民法90条の公序に反する違法なものであるといわなければならない。
そうすると、被告会社は、不法行為責任(民法709条、44条、715条)に基づき、原告らに対し、これによって原告らに生じた損害を賠償する義務を負うというべきである。

…中略…
(2) 慰謝料
原告らは、被告会社に対し、前記差額賃金相当損害金等の支払を求めることができるから、これにより、基本的には被告会社による本件人事資料に基づく差別的取扱いにより受けた経済的損害(LCとの差額賃金相当損害金等)は填補されているが、原告らは、被告会社からBH登用に関する差別的取扱いを受け、BHに登用される機会を喪失しているのであって、本件人事資料に基づくBHとLC間の年収の格差等その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件人事資料に基づく差別的取扱いを受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告甲野について300万円、原告乙山については250万円、原告丙川について200万円、原告丁谷について150万円が相当である。

…後略…