日照権を巡るトラブル

日照権侵害による慰謝料請求を一部認容した裁判例

平成16年2月20日東京地裁判決(平13(ワ)20539号)は、日照権侵害に基づく慰謝料を一部認容した事例です。 なお、同判例では複数の共同原告のうち、一部の原告のみに受忍限度を超えた日照被害が生じていると評価されていることから、他の共同原告との比較の中で、裁判所が受忍限度とする分水嶺が把握し得ます。

日照権侵害となる日照阻害について

裁判所は「 原告…らが被る日影被害は、約7時間程度とほぼ終日にわたっている。そして、仮処分の際の和解による住戸削減により日影時間が改善され、また、旧建物の際の日影時間と比較してみても、別紙本件各建物による指定点日影図の№10の指定点で25分日影時間が短縮されたものの、他方、№11の指定点では1時間4分、№12の指定点では1時間15分日影時間が延長されており、日影時間は、約5時間52分から約7時間20分程度と日影規制を大幅に超過していることからすると、前述の地域性や交渉経緯に鑑みても、本件各建物による原告…らが被る日影被害は受忍限度を超えているといわざるを得ない」として、日照権の受忍限度を超えた侵害を認めました。

日照権侵害による慰謝料の額について

原告…らは、本件各建物により日照被害を受け、それによって相当の精神的苦痛を受けていることは容易に推測できるところ、原告…らの精神的損害に対する慰謝料は、日照被害の態様、程度、従前の状況、交渉経緯等を総合勘案して、両名で50万円とするのが相当である。

日照権侵害を否定した裁判例

下記裁判例のほか、日照権侵害を否定した裁判例は数多く存在します。受忍限度を超えた日照権侵害について裁判所が高いハードルを設定してることがわかります。

例えば、平成25年11月21日東京地裁判決(平23(ワ)28796号 損害賠償請求事件)は、「原告が,原告が所有し居住する建物の隣接地に被告らが建物を建築したことにより日照権が侵害され,建設工事の騒音や振動等により被害を受けたとして,不法行為に基づく損害賠償として,被告らに対し請求の趣旨記載の金員の連帯支払を求めた事案」です。

裁判所は下記の通り述べて、日照権侵害を否定しました。

「b棟によって,原告建物の日照が阻害されていることや,その程度は旧建物が建っていたときよりも大きくなったと認められるものの,b棟は建築基準法等による日影規制の対象外の建物であって,b棟の建築について法令に違反する点があるとはいえないこと,b棟による日影について,仮に,日影規制を受けるとした場合には,規制を超える部分があるもののその違反の程度はわずかであること,b棟は北側の境界からは3メートル以上の距離をとって建築されていること,他方,原告建物の建ぺい率が規制の50パーセントを超えるものであることや南側の境界との距離が小さいことも原告建物の日照阻害の程度が大きくなっていることの原因であることを考慮すると,b棟建築による原告建物の日照阻害が,社会生活上一般に受忍すべき限度を超えるものであるとは認められない。 上記陳述書を含めた本件全証拠によっても,本件工事による騒音や振動が,客観的にどの程度のものでどの程度の時間継続したのかは不明であって,それが社会生活上一般に受忍すべき限度を超えるものであったと認めることはできず,原告に対する不法行為に該当するということはできない」。