公訴:訴訟条件

①訴状条件

訴訟条件とは、係属した事件について、実体的に審理、判断を行う要件をいう。管轄違い、控訴棄却を導く形式的訴訟条件と、免訴を導く実体的訴訟条件がある。

②訴訟条件の判断対象

係属事件が訴訟条件を具備しているか否かは、訴因を対象として判断されるべきか、心証を対象として判断されるべきか。審判対象と関連して争いがある。この点、審判対象を生の事実としての公訴事実と捉えると、裁判官の心証を基準として判断すべきことになる。しかし、当事者主義的訴訟構造(256条1項、298条1項、312条1項)のもと審判対象は、検察官が構成した犯罪事実たる訴因と解される。したがって、訴訟条件の有無は審判対象たる訴因事実を基準にして判断すべきである。
注1)したがって、時効の成立や、管轄権の存否は訴因たる犯罪事実を基礎として具体的に判断されることになる。すなわち、心証を基準として形式裁判を行うことは、審判対象とされていない事項について審理、判断をすることを意味し、許されない。
注2)もっとも、裁判所の心証が訴因に包含される場合、心証を基準として形式裁判をすることも可能である(縮小認定)。

③告訴の追完

告訴なき起訴は、違法であり公訴棄却される(338条4号)。しかし、後に告訴を得た場合、起訴はその瑕疵を治癒されるのだろうか。公訴棄却しても、検察官は再起訴が可能であり問題となる。この点、親告罪の規定に反してなした起訴は重大な瑕疵を有し、検察官の違法起訴を抑止する見地から、瑕疵は追完されないと解すべきである。また、控訴棄却の間に和解などの機会が生じるため、被告人にとって、公訴棄却がまったく利益を有さないとはいえない。したがって、告訴の追完による瑕疵の治癒は認められないものと考える。
注1)したがって、当初訴因が不適法である以上、適法訴因へ変更することで瑕疵を治癒することも許されない。
注2)これに対して、適法な訴因から不適法な訴因へ訴因変更することは、公訴提起自体に違法性がなく、許される。訴因変更後、訴訟条件が備わっていれば、審理が続行される。反対に、訴訟条件が備わらないのであれば、変更後、それ以上の審理判断は許されず、形式裁判により審理は打ち切られることになる。なお、審判対象が訴因である以上、適法訴因から不適法訴因への訴因変更命令は認めらず、検察官から訴因変更の要請がない場合、裁判所は当初訴因について、無罪とすべきである。

④告訴不可分の原則

告訴は、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示であり、その意思表示は原則として不可分のものと解釈される。したがって、共犯者の一人を摘示してした告訴の効力は他の共犯者にも及ぶ(主観的告訴不可分の原則)。また、一罪の一部についてした告訴の効力も、他の残部に及ぶ(客観的告訴不可分の原則)。
注1)しかし、親告罪が特定の身分に基づく一身専属的な場合、身分を有さない共犯者に対する告訴に、身分を有する者(例えば自己の親族)に対する処罰意思までも見出すことは困難であり、例外的に告訴の効力は及ばない(主観的告訴不可分の原則の例外)。
注2)また、告訴権者が一罪の一部に限定した告訴の効力は、例外的に残部に及ばない(客観的告訴不可分の原則の例外)。告訴権者が告訴を不可分としない意思を明示しているからである。
注3)なお、告発についてであるが、明文にない、客観的告訴不可分の原則を宣明した判例(最判平成4年9月18日)がある。

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